今日から開始!DANSTREETオリジナルダンス小説「ブレイキンガール」〜SCENE 1:ハルク少年

2017.04.03 COLUMN

SCENE 1〜ハルク少年

 

テレビに映る彼の姿は明らかな異彩を放っていた。

派手なセットでお笑いタレントがにぎやかす空間の中で、それは決して威圧的なものではない。15歳の彼の雰囲気が、体が、オーラが、その身のこなしひとつひとつが、明らかに共演のレントたちと、あるいは出演している他の出演ダンサーたちとも「違い」を見せつけていた。

「あらら、また出てるじゃない。“センパイ”が」

母親が、夢中になってテレビにかじりついているカナに、食器を片付けながら冷やかすように話しかける。

「いま!うるさいから!」

「ふふふ、ゴメンなさ〜い」

真っ赤なチームTシャツに、細身の黒いパンツというシンプルなファッション。短く刈り揃えた髪はやや茶色がかっている。中学のときは黒髪だった彼も今は高校1年生なのだ。高校に入ってから付け始めたシンプルなピアスが、あのケンジ先輩と同じブランドだということを実はカナは知っている。

「お待たせしました〜。人気急上昇中!イケメン高校生ブレイクダンサー、コウくんです!」

司会の関西芸人と巨漢のオカマタレントの間に挟まれた彼は、もう何週もこの番組に出ているはずなのに相変わらず所在無さげで、はにかみながらも真面目に受け答えしようとする。

「ねぇ、もう人気出ちゃって〜、街とかで声かけられるやろ?」

「当然よぉ、だってカワイイも〜ん! それに見てぇ、てか見せてぇ、この胸筋! 脱いだらハルクなんですもん!」

「なんじゃそりゃ! たとえ古すぎるし!」

「ワッハッハッハ!」とスタジオから大きな笑いが起こる。

司会のいつものイジりに、彼は真っ赤に顔を染め、下を向きはにかむ。

「キャ〜、カワイイ〜!」

テレビで何週かに放送が渡っていても、実は一日で何回分かを録っているって聞いたことがある。何本録り…とか? 彼はコレで実際は何回目の出演なんだろう。この番組で彼を見たのは、そう、6回目。その間に「イケメン高校生ブレイクダンサー」は、ネットやSNSでちょっとした噂の高校生になっていた。

くっきり二重の目はアイドルタレントの様につぶらだが、顔の骨格は男っぽく、特に顎まわりのたくましさは格闘家やスポーツ選手特有のもので、高校1年生にはとても似つかわしくないシルエットだ。それ以上に、童顔の下から伸びる首は太く、肩周りの筋肉の隆起もタダ者ではないムードを醸し出している。

確かに……、ハルクかも。

チーム名の入ったTシャツからはくっきりと胸の筋肉の厚み。中学校時代に比べて、彼のカラダつきは明らかに「デカく」なっている。汗っかきなのか、うっすらと顔に出たニキビがまだ高校生らしい。 

「え〜、彼女とか出来たりしてるやろ?」

「てか、もういるに決まってるでしょー!」

「あ、いや…

「いるんやろ? いるの? えぇ!いるんだろ、お前、オイ!」

「言っちゃいなさいよ。愛してるぞ〜!って。キタ〜〜!とか」

彼は顔を赤らめれて下を向く。

カナは自分のツバがゴクリと喉を通る音を聞いた。

 

「え、え、誰? センパイに、いるって彼女?」

母親がスリッパをパタパタさせながらキッチンからかけ寄ってきた。

「だから、あっちいって〜!」

「や〜、そういうのは…いないっす。やっぱ自分はダンスが…」

「あー、はいはい。ダンスが恋人ってワケや! これモテるわ。女子のみなさ〜ん、コウくん、フリーですよ〜! 立候補したい方はコチラへ〜」

と、司会の芸人が画面の下側をサラサラと指差す。

「そんなの募集してないわよ! でも、ホントやってみない? コウくん恋人オーディション!」

「い、いや…。そういうのは…」

会場からまた「カワイイ〜!」「わたし、わたし〜!」などの嬌声。

「なんか、だんだんムカついてきわぁ。じゃあ、今週も踊ってもらおうかな! 今日はどんなダンスを?」

「はい!」

先ほどと打って変わってキリっと表情が引き締まり、目を見開いて彼は答える。

「今日は新しいパワームーブをやります。曲はJBのセックスマシーンでいきます!」

 

「セ、セ、セックスマシーンって…。いきますって…。なんてコト言うのかしら、この子ったら。ねぇ、ど、どうしましょ? JBって何? それなんかの隠語のことぉ?」

「隠語なワケないやろ! 曲名や。まぁ、詳しくは…俺も、よう知らんけど」

「ワッハッハッハ!」とスタジオ内を爆笑が包む。

再び彼が顔を赤らめた瞬間、曲のイントロが流れ、スタジオ内の照明が落ちる。そそくさとハケるタレントたち。

 

♪チャ・チャ・チャ・チャ・チャ・チャ・チャ!

「げらっぱ!」

再び顔を引き締め、身を屈め、ゆったりと縄張りを確認するようにステップを踏む彼。壁に沿うように並んだ共演ダンサーの顔にも緊張が走る。

そして瞬間。まるでサッカーや野球のスライディングの様に手をつき、鋭く身を切り込ませた瞬間、まるでお茶の間バラエティ番組にはふさわしくないギラリとした「光」が、彼の眼から白く放たれた–––––

つづく

posted by DANSTREET



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