審査基準に物申す!ダンス部顧問に一大アンケート調査「高校ダンス部大会の審査基準」

2018.10.29 COLUMN

最近、ダンス部に興味を持った人たちの中では、ダンス部大会の多さに驚く人も多いだろう。しかも、そのどれもが似た名称であり、全国大会と銘打っている大会も多いので、やや混乱を招くこともあるかもしれない。リズムダンス系のダンス部大会は元々、スポーツ競技のようにインターハイ(高校総体)がないという出自から、さまざまな企業や組織が大会を興し、やや数が乱立しているのが現状である。そして、同じ高校同士でも大会によって順位が入れ替わる場合があるのは「審査基準の違い」が要因と言える。要は、大会によって作品を評価するポイントに微妙な違いがあり、審査員の顔ぶれによっても評価のブレは生じてくるのだ。

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上の表「主要ダンス部大会の審査基準DATA」に、審査基準を公表している主なリズムダンス系の全国大会を記した。それぞれの「審査基準」「審査員」、そして大会の規模がわかるように参加校数を記載している。審査基準はそれぞれの項目の呼び方が違うところがあるが、「ダンス技術」の項目がまずあり、それ以外には構成力、印象度、テーマ、音楽性、衣装などなどの評価点が名称を変えて入っている。それらの項目の置き方や配点の比重が、各大会の審査基準の違いとなってくるのだ。「審査員」は、プロダンサー審査員が共通してあり、それ以外の人選とその人数を記している。
今回、大会に参加するダンス部顧問68名の先生方に「審査基準」と「審査員」に関するアンケートを取った。日々さまざまなニュースが飛び交い、アマチュアスポーツ界が揺れ動くご時世である。ダンス部大会の全体の発展のために、ここで回答者からの忌憚なき意見をご紹介しよう。

(文:ダンスク!編集長 石原久佳)
※ダンスク!第19号より記事転載

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審査基準について

満足している
「感動」の基準は人によって違う
・基準をはっきり明記し、自分たちの結果がジャッジシートで確認ができるため。(北海道・私立)
・事前に明示されているコンテストが多い。また、ダンスはスポーツとは異なると思うので、コンテストによって違いが出るのも良いことだと思う。(東京・私立)
・「うまさ」とか「感動の与え具合」などという基準は人によって違うのが当然なので、自分の基準と審査が違っていてもその指標が明確で公正であるならばそれで良い。(大阪・私立)
・大会で上位の成績を収めるチームのダンスは、やはり見応えがあると感じることが多い。(大阪・私立)
・ジャッジや基準にケチをつけるのはつまらないと思うし、入賞したときは喜び、入賞できないときは不満を言うというのは違うと考え、そう学生に指導している。(山梨・私立)

大会によって違う/どちらとも言えない
何に重きをおいて審査しているか
・ダンスは芸術だと思うので、審査基準が曖昧なのは仕方ない。(長野・公立)
・大会基準はそれぞれで良い。審査員の選定と審査のばらつきを少なくすることが大切。(奈良・公立)
・何に重きをおいて審査しているのかがわかるように公表し、また、それが毎年大きく変わらないように審査してほしい。(東京・私立)
・審査に審査員の主観が入る部分がダンスの魅力を支えていると思う。機械的に加点減点をするのではなく、どれだけ心を動かせたか、本校ではこの「人の心を動かすダンス」を目指している。(大阪・公立)

エンターテイメント性への評価
・大会によって求めているものが違うように感じる。芸術性重視なのか、エンターテイメント性重視なのか、その両方なのか。(東京・私立)
・全体的にエンターテイメント評価が強く、ダンスのスキルと結果があまり伴っていないように感じることがある。(千葉・公立)
・エンターテイメント性や「高校生らしさ」という基準も、大人の期待を押し付けてしまっているようであまり好ましくないように感じる。(神奈川・公立)

ストリートダンス大会との違い
・ストリートダンスの大会に比べ、テーマ性などやキャラクターものや衣装の派手さなどが目立っていて、予選突破の微妙なラインでは一般受けする作品が多く通っているように感じる。(東京・私立)
・昨今のダンス部シーンの発展の原動力は、間違いなくストリートダンスの人気であると考えているので、審査員についてもそれに準じて選定すべき。高校生ダンス部シーンがこれほどまでに盛り上がりを見せた今日、そろそろストリートダンスをストリートダンスの持つ美的価値観で正当に評価する必要が求められる時期に来ているのではないだろうか。(埼玉・公立)

満足していない
ダンス力への正当な評価
・例えばダンス技術10点、衣装ビジュアル10点のような配点であると、圧倒的にダンスがうまくても衣装が華やかな学校に点数で負けてしまう。ダンス力が主軸となるべきだと思う。(福岡・公立)
・「ダンス」の大会であると位置づける以上、あくまで踊る技術が基軸となって評価されるべき。衣装、メイク、テーマといった舞台装置として機能するもののみでも評価がなされるのであれば、それはもう総合的な舞台芸術全般を問うている大会である。審査基準に鑑みれば、極端に言えば仮にダンス技術が0点でも、その他の審査項目で点数を稼げば、結果としてダンスの上手い学校を逆転できるのであるから、勝つために戦略的に「仮装大賞」的な要素の研究に走る学校が増えるのは当然。しかし、踊る練習をしないで、それ以外の要素を追究することは、「ダンス」部の活動として本末転倒ではないだろうか。(埼玉・公立)


審査員について

満足している
・訓練され、その団体の一定の基準をクリアした審査員が審査している大会にについては満足している。(北海道・私立)

大会によって異なる/満足していない
ダンサー審査員の選定
・審査員がどのジャンルのダンサーかで評価が変わってしまうように思える。(埼玉・公立)
・毎年同じ審査員が一人でもいるコンテストの方が、終了後に生徒へフィードバックしやすい。(東京・私立)
・一概にプロダンサーと言ってもいろいろなので、ジャンルによる評価の偏りもあるだろうし、願わくば審査員には、外部コーチと同じく高校ダンスの良さやその意義を知っていて欲しい。ある大会で、ストリート系ダンサーの場違いなコメントに辟易し、教育現場にはふさわしくないと感じたことがある。(千葉・公立)
・まずプロダンサーのジャッジムーブは不要だと思う。あれはストリート系のダンスコンテストの流れであって、イベント価値を高める意味もあるが、ダンス部大会には特に必要性を感じない。審査員はチアダンス系の大会のように、訓練された専門家と細かい審査方法を取り入れても良いだろう。(東京・公立)

プロダンサー以外の審査員
・ダンスに限らないエンターテイメントやアーティスティックな目もあって良いとは思うが、ダンサー、またはダンスを専門としている方をもう少し増やした大会の方が納得感がある。(東京・私立)
・やはりダンスのコンテストなので、もっとその部分をよく見てほしい。ダンスのスキルがあってこそエンターテイメントだと思う。(千葉・公立)
・対象がダンサーでも一般の方でも、心を動かすダンスを作品を作ることが大事。ただ、その審査員の割合に関しては考えてほしい。(大阪・私立)
・例えばフィギアスケートでは一般の方は審査しない。一般の方が審査していると、仮装大賞や紅白歌合戦のように感じてしまう。(福岡・公立)
・ダンス部の大会は民間企業が行なうことが多く、スポンサー企業や関係者が列席するのは政治的事情として仕方ないとしても、審査に関しては大会関係者の総意として公明正大に見える体制を作ってほしい。それこそが、学生への応援、ダンス部界の正しい発展につながると思う。(千葉・公立)
・関連企業の関係者は特別賞を選ぶだけで良いと思う。学生のためを思うならば、審査は専門家に譲る選択をしていただきたい。(東京・私立)
・ダンスの大会なのにダンス未経験者の芸能人やスポンサー企業の社員がジャッジをするのは、本気で取り組んでいる高校生に失礼だと感じる。スキルに対して適切な審査も出来ないであろうし、特に今年多かった有名チームの盗作を見抜く力がない。(東京・私立)
・一般目線も大事、という理由でのプロダンサー以外の審査員選定なのだろうが、その選定がある一定の世代に固まっているようで、その方々の知識や好みも知ることができない。結果としては、キャッチーな選曲やエンタメ路線が有利で、本格派やストリート系、芸術路線は不利なのでは、という印象を持ってしまう。そして、ダンス部全体の活動目的がそちらに流れる心配がある。(東京・公立)

 

その他の意見

・得点制の大会の場合、集計で結果が決まるはずだが、審査が難航するとアナウンスされる場合がある。ここは説明がほしいところ。(東京・私立)
・地方大会でも審査結果(点数)を公表していただけたら嬉しい。生徒のフィードバックがなく、次の大会への改善ができないので…。(大阪・公立)
・マイナーな曲を使うと評価がマイナスになるのが如何なものかと思う。審査する方には責任を持って勉強してほしい。(宮城・私立)
・審査基準は、あまり細かく決めなくてもよいのではないか。選曲、衣装、振付、構成、ダンススキル、エンターテイメント、パッションなど、総合的な作品の評価をしてもらいたい。また、審査員は毎年何人かは固定し、何人かは新人という構成が良い。あるいはダンサーに偏らない大会もあって良い。オーディエンスの評価や高校生審査員の登用もありではないか。(奈良・公立)
・振り付け、構成などコレオグラフィに関して、プロコーチの有無についての項目が欲しい。(東京・私立)
・結果が得られなかったとき、審査員の心を動かせなかったと考えると、多くの改善点などが浮かび上がってくる。この相手の心を読もうする力を養える点こそが高校という教育の場にダンスが求められる理由の一つだと思う。(大阪・公立)

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アンケートは短期間であったにも関わらず、多くの反応とこれだけの意見が集まった。それだけ、部活動を管理する顧問の先生方が、ダンス部大会のあり方に憂慮し、今後の発展に期待もしているのだ。ダンス部の活動は教育期間で行なわれているのだから、当然その活動は教育的であるべきだ。青少年がダンス部の活動を通じて、豊かな経験と人格形成を得て、やがては立派な社会人になること。それこそがダンス部活動の最大の意義であると考える。その道程での目標の1つである各ダンス部大会の審査基準の多様性は、青少年がダンスを通じてどんな感性や技術を育むかべきかという、主催者のポリシーの違いから生じるものならば許容できる状況であり、その多様性こそダンスの魅力と可能性そのものとも言える。何より大事なことは、企業主催の大会であっても立脚点が「学生ファースト」であること。青少年の将来や日本の未来へとつながるために大会やその審査基準があり、都度の見直しと改善を重ねながら、全体が正しい方向へ成熟してくことを望みたい。

 

レポート:石原久佳(ダンスク!)



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