【注目記事】「ダンス部大会の未来」〜2019年夏の注目チームを振り返る
2020.04.09 COLUMN
文=石原久佳(ダンスク編集長)
フリーマガジン『ダンスク!』より、反響の高かった記事をウェブで再掲載しました。
昨年(2019年)の夏の大会を振り返りつつ、活躍したチームと、各大会の特色・課題に迫ります。
(ダンスク2019年10月号より転載)
2012年から変わったダンスの場所
ダンス部のニュースやパフォーマンスがメディアで日常的に流れるようになった。つい先月も、夏の全国大会のニュースが朝のワイドショーで流れ、歌番組ではダンス部のコラボ出演も珍しくない。もちろんネットニュースや動画でもその活躍が目に入る。夏の青春コンテンツ、男子は高校野球ならば女子は高校ダンスという時代が来ているのかもしれない。登美丘高校のブレイクをきっかけに、ダンス部のダンスは一気に市民権を得て、その社会的影響力はストリートダンサー以上のものと言える。実際バブリーダンス動画の再生回数は現在8千万回以上。それまでどんなダンス動画もなし得なかった驚異的な数字なのだ。
個人的な話になるが、筆者は元々音楽雑誌の出身であり、13年前にストリートダンス雑誌の編集長を引き継ぐ形でダンス界へ入ってきた。当時、盛り上がりつつあったと言え、ダンスシーンはまだまだアンダーグラウンド。イベントは主に深夜のクラブで一般的なダンスへのイメージと言えば「あ〜、あの駅前で踊ってる…」程度のもので、ダンサーの中には決して品行方正とは言えない若者もいた。それが顕著に変わってきたきっかけが、習い事としての定着によるキッズダンサーの増加と2012年の公立中学校でのダンス必修化だ。それまで一般にはほぼ無関係だったストリートダンスが、知育教育分野から一気に市民権を得たのだ。当時手がけていたダンス雑誌もキッズ専門に路線変更したところ、意義や存在価値を見出し、次第に部数も上がっていった。
街にはキッズを打ち出したダンススタジオが増加し、地域コミュニティのハブであるショッピングモールではキッズダンスイベントが歓迎され、キッズダンサーがメディアに登場する機会が増えた。大人のプロダンサーも日本人ならではのエンタメ表現やスキルを武器にするタイプが目立ち始めた。ディスコやクラブを発火点としてカルチャーとして広がってきた日本のストリートダンスが、「キッズ」「教育」「エンタメ」という接点を持つことで、思わぬ可能性を見せ始めたのだ。そして習い事としてダンスを始めた2000年以降生まれのキッズたちは、その後のシーンを担う黄金世代へと成長していった。
その世代の受け皿が高校のリズム系ダンス部。ダンス授業に関しては、学校により温度差があると聞くが、必修化により学校側がダンスへの理解を深めているところに、アクティブにダンスに取り組む女子たちの熱がダンス部を加速度的に盛り上げた。創作ダンスやチアダンス部はストリート/リズム系ダンス部へ変化し、同好会から部への昇格も増えたという。彼らは生まれた頃からダンスミュージックに親しんでいる世代。そして高校時代は家族から友達へ居場所がシフトしていく時期。そしてSNS主流の今は個より共感(イイネ)の時代。女子による群舞が盛り上がるのは、やはり時代と国民性によるものであるのだ。
自分たちの答えを探し出す大会出場
前置きが長くなったが、そんなダンス部のモチベーションの1つであるのが大会出場だ。どうやって良い作品を作るか? ジャンルは? 曲は? 衣装は?演出は? 毎年レベルアップするダンス部戦線で「勝つために」部員たちが試行錯誤することは、何よりの成長につながる。他競技と違ってダンス部には、明確な指導メソッドや指導者は少なく、また自主性を重んじているために、練習から作品作りまで自分たちで考えることが課せられる。勝つために——目的が明確であるから、積極性や自主性、協調性が自然と生まれる。教室では絵に描いた餅になりがちなアクティブラーニングの実践がダンス部の現場では行なわれているのだ。もしかしたらここに、未来の教育を切り開くヒントがあるかもしれない。大会出場をしないダンス部も多いようだが、「正解のない中で自分たちの答えを探し出す」大会出場への過程で得られるものは大きい。
ダンス部大会の歴史を紐解いていくと、年以上続く「全日本高校大学ダンス・フェスティバル」と「ミス・ダンスドリル」が古株だ。前者は、戦後からダンスを教育の中で推し進めてきた日本女子体育連盟が主催する創作ダンスのコンクールであり、後者はアメリカから入ってきたチアダンスの競技会。20年前ぐらい前のストリート系ダンス部は、これらの大会に外様として出場する形が多かった。そして2008年に登場したのがダンススタジアム(日本高校ダンス部選手権)だ。大阪の芸能プロダクションが企画運営し、産経新聞とストリートダンス協会が主催する。先の2大会と違いストリートダンスを主としながら、それまでのストリートダンスコンテストとは違う教育色や公共性を打ち出していた。ストリートダンスに対してまだまだ色々な見方がある時代に、「学校側が安心して取り組める大会」としての体制を整えていたことはダンスの歴史の中でも革新的であった。回を重ねるごとに規模を広げ、現在夏の大会では495校がエントリー、全国8カ所での地方大会の開催と、「ダンス部の甲子園」として認知されている。春の新人戦(1年生対象)、冬のバトル大会に加え、2019年の秋には選抜大会(/4横浜アリーナ)も開催予定で、さらに影響力を増していきそうだ。
そして2012年のダンス必修化のタイミングでスタートしたのが「日本ダンス大会」と「DCC(全国高等学校ダンス部選手権)」だ。前者はスポーツメーカーのミズノが企画運営、日本ダンス技能向上委員会が主催する。後者はavexグループとJSDA(日本ストリートダンス協会)が企画主催。関東圏中心ではあるが、前者は教育的要素、後者はエンタメ的要素を打ち出し、年々参加校を増やしている。また、2011年からスタートした「全日本高等学校チームダンス選手権」は、ダンス部大会のインターハイを目指し、顧問の主導で全日本高等学校ダンス連盟が主催する、ダンス技術に評価の重きを置くストイックな大会だ。他には、ストリートダンスイベント会社が運営する「HIGHSCHOOL DANCE COMPETITION(ハイダン)」と「高校ストリートダンス選手権」が後発としてあり、ここ数年は地方自治体などが主催する大会も増えてきた。まさに、ダンス部大会百花繚乱という様相で、スケジュールや労力的にすべてに参加するのは難しい状況だ。年前と明らかに違うのは、ダンス部側が大会を選ぶ時代となっており、大会側も特色とポリシーを持たなくては、いずれ自然淘汰されるということ。大会だけでなく、成り立ちや競技内容が他の部活とは違うダンス部は、さまざまな局面で常に新しいカタチを模索している。学校にとって、高校生にとって、学生の将来にとって、理想的なダンス部大会の未来とはどんなものだろうか。
参加校が納得できる審査体制
ダンススタジアムへの総評をウェブ版のダンスクにアップしたところ大きな反響があった。以前から疑問に感じていた審査基準や審査員のラインナップについて厳しく言及したところ、全国のダンス部顧問から賛同の声をいただいたのだ。詳しくはウェブ記事の【総評】を見てもらいたいのだが、
>>記事はコチラ
審査基準については大会回目を数えるところで今一度見直しても良いのではないかと考える。特に、大会関係者が審査員となり、プロダンサー審査員と同様の審査点を持っている点には異論の声が多い。プロダンサーにしても誰でも良いわけではない。専門ジャンルの偏りが少ないこと、高校ダンスへの理解、群舞構成への評価能力など、ストリートダンス大会の審査とは違った能力が求められるべきだ。
また、DCCは漢字二文字の表現性が審査点の半分以上を占めている点と、ストリートダンスイベント会社の大会が「ストリートダンスらしさ」という評価基準である点は、非常に特徴的ではあるが、一般にはわかりにくい印象もある。日本ダンス大会とチームダンス選手権に関しては、大会趣旨に基づいたバランスのとれた審査基準であると評価している。
筆者も審査員をすることがあるのでわかるが、同じプロダンサーでも評価のポイントはけっこう違う。ここは「好み」として片付けて良い部分とは思えず、チアダンス大会のように公認の審査員を組織するまではいかずとも、事前に審査員間である程度のコンセンサスはとるべきだと考える。現状では、大会側が審査員を選んだ時点である一定の審査傾向は出来上がってしまうので、その選定には熟考と配慮が欲しい。ダンスコンテストによっては、あえて審査基準を作らずに各審査員に上位3チームを選んでもらい、それを集計するシステムもある。これこそ、審査員の選定が審査基準を作ることに直結するわけだ。また、参加者が自校以外を投票する審査方法も、学生に評価眼と責任感を持たせる意味でも面白いだろう。
すべての参加校が納得する審査結果は存在しないが、「ほとんどすべてが納得する」審査体制であることが理想だ。そして、各大会の審査基準の多様性がそのまま、ダンスの多様性と学生のやる気を引き出すような状況が望ましい。そのために私と弊誌及びウェブが力になれるならば、ジャーナリズム精神に則りこれからも真摯に評論していきたい。
ダンスク!PICK UP TEAM
ダンススタジアム決勝とDCCの出場チームの中から、結果とは関係なく印象に残った/フレッシュだったチームを編集長がピックアップしました。
同志社香里高等学校(大阪)
ダンスタは三連覇ならずだったが、DCCでは見事優勝。昨年はDCCが4位でダンスタは優勝なので、今年はその逆の格好だ。短期間での修正能力・適応能力の高さは、ダンスタ通算6回優勝の経験値と言える。多彩な音感表現、圧倒的なワックのスピード感、鬼気迫るような集中力、どれも抜きん出ているが、最大の武器は大会前日ギリギリまでフリに修正を繰り返すその執念だろう。
帝塚山学院高等学校(大阪)
ダンスタ2度目の出場で優勝の快挙。創作ダンスの出身であり、その表現力や構成力は他を圧倒する新鮮さでジャッジに高評価を得た。樟蔭高校しかり、今後リズム系ダンス部大会に創作ダンスの波が黒船のように押し寄せてくるかもしれない。
>>部活取材レポート記事はコチラ
駒澤大学高等学校(東京)
プロコーチのハイレベルなディレクションもあり、ダンスタのビッグ/スモール、DCCで入賞クラスの躍進を見せた。しかも3つとも違う作品。フロアを活かした多彩なジャズ表現、アタックの強いヒップホップ群舞。どれもモダンなセンスと強いチームワークを感じさせる。
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北九州市立高等学校(福岡)
ダンス部の黎明期から活躍する「N9SD CREW」の作品はいつも、ストリートダンスの歴史をプレビューするような温故知新的な魅力とフレーバーが匂い立つ。グルーヴ、ファンク、ヒップホップ。形ではなく、その精神性から踊りは魅力を放つのだ。
>>基礎トレーニング動画はコチラ
日大明誠高等学校(山梨)
押してダメなら引いてみろ、ではないが、彼らの間と空間を操るアプローチはコンテストのラインナップでは非常に際立つ。テーマ性の表現や音感表現も抜群の安定感が。西方から攻め上がってきた甲府武士のごとく、上位常連校へと下克上を遂げた。
>>部活取材レポート記事はコチラ
目黒日本大学高等学校(東京)
日出学園から改称されたが、そのパワーとエネルギーは健在。リズムダンスをスポーツ競技として捉えているかのような、フィジカルの強さと動きのダイナミクスが作品にスケールを生む。都会っ子でも根性決めてやればできるのだ。
大阪府立柴島高等学校
ストレートなヒップホップ表現が評価されにくくなっている昨今だが、彼らの生き物のように群がグラインドするグルーヴ力はやはり魅力的だ。箕面高校や二松學舍大学高校にも言えるが、こだわりと覚悟を持ち鍛錬し続ければ、評価は向こうからやってくるのだ。
トキワ松学園高等学校(東京)
人権運動家マララへの共感を表現した作品が異彩を放った。とってつけたものではなく、高校生の真摯なメッセージが作品に力を与え、つながっていく未来すら感じさせる。しばらく苦戦が続いた同校だけに、カムバック賞とメッセージ賞も贈りたい。
品川女子学院(東京)
我が子のように、作品は産んだら育てるもの。ダンスタ新人戦から1つの作品をじっくり磨き上げ、最後には相応の評価と「らしさ」を作り上げた。自分たちの武器を把握し、足りない要素をセンスとアイディアで補完する、高校ダンス部ならではの好アプローチだ。
>>書籍『ダンス部ノート』に密着取材が掲載
鎮西高等学校(熊本)
ダンスコースというアドバンテージのある鎮西だが、大会では毎回チャレンジングな姿勢を見せてくれる。どんな分野もレベルが高くなると均質化の傾向が出てくるが、そのアンチテーゼのような斬新な作品作りは毎回の楽しみ。
東京都立町田総合高等学校
スモール2位の川崎北もそうだが、ロックやヒップホップは「味付け」が大事な評価につながる。町田総合はバスケのアクティングの取り入れ方で観客を引きつけた。ダンスと演出は常にバランス感とスピード展開がキモだ。
武南高等学校(埼玉)
やはり男子ダンサーの活躍の場所はココだろう。大技に憧れるブレイクダンサーは作品作りが苦手、という定説があるが、彼らは多彩なキャラクターと賑やかしさで観客の笑顔を引き出す。とは言え、ショーや構成も見るたびに良くなっているので、今後に期待だ。
東京都立大森高等学校
パロディ作品を見ると安心してしまうほど、全体の作品レベルは本格化しているが、コッチ路線も相応のセンスとダンス力が求められるようになってきた。さらに、代替わりしての変遷なども評価される時代なので、作風を守りつつの進化も期待したい。
【関連動画:高校ダンス部強豪校はどこだ!?〜西日本編】
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column①
顧問が大会の体制にのぞむこと
最終的に大会への出場を決めるのは顧問だ。そのための学校側への説明や、作品制作の監督、必要経費の捻出、当日の引率など、さまざまな業務と責任を負うことになる。今年の大会へ出場したダンス部顧問から「ダンス部大会の体制にのぞむこと」というアンケートを取ったので、いくつかご紹介したい。
▶「チケットを取りやすくしてほしい」「もう少し価格を安くしてほしい」
▶「場当たりの時間を長くしてほしい」「更衣室や練習場所を確保してほしい」
▶「スタッフの対応を細やかにしてほしい」「信頼のおける団体の大会に出場したい」
▶「審査員はダンサーだけにしてほしい」「納得できる審査基準や審査員に」「ダンススキルをもっと評価してほしい」「大会後にアドバイスシートがほしい」
▶「ダンスジャンルごとの大会や自主制作チームのみの大会があっても良い」「生徒の成長をうながす大会であってほしい」
column②
ストリートダンスとは如何に?
ここ数年「ストリートダンス」という言葉に違和感を感じている。元々は、従来のダンスと差別化するために、ディスコダンスからソウルダンス、ブレイクダンス、ロック、ポップ、ヒップホップ、ハウスなどの黒人発祥のダンスを後に総称してそう呼ぶようになった。しかし今の若者はダンスと言えばすでにストリートダンスをイメージするだろうし、ストリートダンスを謳ったコンテストや協会も、ジャズ系や創作ダンス系のチームをきちんと評価している。純粋なオールドスクールやヒップホップのチームはストリートと形容したくなるものはあるが、実際、高校ダンス部員や若手ダンサーも自分たちがストリートダンサーであるという自負は薄いだろう。今、ストリートダンスとは如何に?
ストリートカルチャーとは本来アップトゥデイトなものであるし、ある一定の世代に生まれたユースカルチャー/カウンターカルチャーのことを指す。だが、先の括りでのストリートダンスとは一定の形(かた)があり、歴史や精神性も重んじる保守的なカテゴリーだ。そして現状は若者によるリズムダンスをそう総称する大会や団体があり、一般へのわかりにくさを与えているのだ。
言葉は古び、形骸化し、寿命を終えるもの。とにかく、ストリート以外のジャンルを多く含み、群舞の独創性を特徴とする高校ダンスにストリートという括りは違和感を感じる。ダンス必修化で使われる教科書には「現代的なリズムダンス」と表記されているが、それも定着はしないだろう。音楽に比べ、新しい言葉が生まれないのはダンスのメディアが貧弱なため、と自戒を込めて思うのだ。
column③
がんばれ! 中学ダンス部
もちろん中学校にもダンス部はあるのだが、2012年に公立中学校でダンス必修化になったわりには、今ひとつ盛り上がっていないのが現状だ。ダンススタジアムの中学生大会のエントリー校数の推移は、2017年54校、2018年55校、2019年57校と、数も参加校もほぼ変わりない。小中学校の学校参加部門がある朝日新聞主催の全日本小中学生ダンスコンクールは、2017年65、2018年65、 2019年64と横ばい。ダンスタの決勝大会では、同志社香里、樟蔭、三重、品川女子など私立中高一貫校が上位を占めることが多く、そのパフォーマンスのレベルは高いが、いわば高校の準備段階、ジュニア版といった印象があり、「中学生らしいダンス」「中学生ならではのダンス」という部分はなかなか見えてこないのが現状だ。
しかし今年のダンスタ決勝では、これまで入賞すらなかった三田国際学園(写真)が優勝し、中学生らしい溌剌としたパフォーマンスを披露してくれた。公立では、江戸川区立葛西第三や板橋区立第一などが毎年気を吐いている。ダンス力で抜きん出ていた同志社香里、表現性が高かった樟蔭は入賞できなかった。偶然なのか、神の見えざる手なのか、今年は中学生大会の様相がどこか変わってきた印象もあった。
中学校では部活としてのダンスにまだ理解がない現状もわかる。ただ、日本はキッズダンス大国なのだ。ハイレベルな小学生ダンサーの能力を中学の部活で「受け皿」として活かさない手はないと思う。野球もサッカーもゴルフも、キッズ〜ジュニア〜ティーンとエリート育成の道が整っている。高校ダンスのレベルアップ、さらにはプロ育成のためにも、基礎作りやディレクション能力を高める「部活」という経路はキャリアの中で非常に有効だ。キッズダンス雑誌をやっていた身としても、有能なキッズダンサーたちがそのまま高校ダンス部へ駆け上げるような導線ができればと願っている。