【評論】ダンス部の教育的効果〜DANCEで創る未来を生きるチカラ(前編)

2022.07.08 COLUMN

ダンス部の教育的効果〜

DANCEで創る未来を生きるチカラ(前編)

 

「ダンスで若者が成長している」
「ダンス部の高校生たちは入部当初から見違えるほど成長する」
「元ダンス部の卒業生たちが、その経験をきっかけに自分の進路を切り開いている」
̶̶筆者が強豪校に取材に行くたび顧問の先生から聞く言葉だ。
ダンス部の活動には、若者の人格形成に大きな影響がある。
そして、新しい教育の可能性が潜んでいる。
今回は、強豪ダンス部を育てた5人の顧問の先生の意見と経験を
いくつかの観点で聞きながら、ダンス部と教育の接点を探っていこう。

インタビュー&構成:石原ヒサヨシ
『ダンスク!』39号記事からの転載

 

6人の強豪ダンス部顧問に訊く“生きた”DANCE×教育論

 

青木 郁美 先生
樟蔭高校ダンス部顧問及び同校身体表現コース主任。体操競技からダンスへ転向し、樟蔭高校では創作ダンスからストリート系の大会まで活躍する部に育てる。卒業後にプロダンサーとして活躍するOGも多い。


▲バレエやモダンの技術習得や規律正しい生徒の動き、主要部員の座談会では負けず嫌いな面も!

 

緒方 浩 先生
ストリートダンサーだった経験を活かし、ダンス部黎明期の25年ほど前から北九州市立高校の顧問として活動。全日本高等学校ダンス連盟代表理事、全日本高等学校チームダンス選手権大会を主宰する。


▲緒方先生が陣頭指揮をとり、北九州市のバックアップのもと決勝戦が開催されるチームダンス選手権。

 

神田橋 純 先生
三重高校在籍時に作ったダンス同好会を、教員として戻った際に部に昇格させる。大会での活躍のみならず、イベント出演やメディア出演、自主公演、SNS活動、アーティストとのコラボなど縦横無人の活動を展開する。


ハイテンション練習や地獄シリーズなどキツい練習を楽しんでいくノリが面白い。自主公演動画も!

 

桜井 里枝子 先生
体操選手として活躍し、千葉県立幕張総合高校では150名を超えるダンス部を率い、関東有数のヒップホップチームに育てた(現在は退任)。自身の経験を活かして、ダンサー向けのフィジカルトレーニングなどを指導。


▲大所帯のダンス部員が校内敷地に広がって猛練習する様はまさに青春! フィジカルトレも細かく解説。

 

八木 克容 先生
大阪府立和泉高校から大阪府立久米田高校へ赴任し、ダンス部顧問として全国トップの強豪校に育てる。大会出場以外にも、さまざまなボランティア活動やイベント出演を経験させ、その後の進路を切り開いたOGも多い。


▲悲願の日本一をかけ神社参拝でスタートする新年の練習をレポート。部員同士のブツかり合いがすごい!

 

矢下 修平 先生
J-POPにロックダンスを合わせた青春スタイルで京都文教高校を全国レベルへと導く。最近ではアーティストのMV出演や企業のPR出演など活躍の幅を広げる。三重高校の神田橋先生とは学生時代に同じダンスチーム出身。


▲企業コラボのMV風動画。振り付けから演出、カット割、ロケーションまでを部員が担当した。

 

#1 挨拶・礼儀・規律
ダンスの悪い印象を払拭する「よき生徒」

 


創部23年を数える北九州市立高校の練習風景。ストリートダンスの軽やかさとカルチャー感を感じさせる作品は、部員の自主性とダンスへの情熱から生まれている。長年の功績を評価され、北九州市からは2013年には市民文化賞を受けた。現在のダンス専用練習場は市の予算により建設されたという。

 

顧問の先生方が、ダンス部を改革する時にまず取り掛かるのが、挨拶や礼儀の徹底、そして規律正しい運営、という形が多い。しかし、それらが単なる形式になっていては意味がないという。まずはそのあたりから、ダンス部を「きちんとした部活」に改革した先生方の経験を伺おう。

緒方先生 一般的にダンスが好きな生徒って、チャラチャラした(軽薄な?)印象を持たれがちです。練習も音楽かけて踊っているだけなので、遊び半分のような印象を持たれることが多かったと思います。創部当時はそのような印象を払拭するべく、ダンス部員にはとにかく「よき生徒」であることを求めました。「よき生徒」とは学業をがんばり、校則を遵守し、他の生徒の模範となるような生徒です。ダンス部が、勉強もせず校則も守らないような生徒たちの集まりであれば、学校の先生方に認めてもらえるわけがありません。当時の生徒たちもそのことをよく理解してくれて、積極的に「よき生徒」である努力をしてくれました。

八木先生 規律や礼儀を守ることは評価されやすいんです。そして、評価されること・褒められることで自己肯定感が上がってくる。私が最初に見たダンス部の生徒たちは、たくさん良い部分を持っているのに、損をしているなぁと感じていました。

矢下先生 礼儀とか挨拶って、ある意味便利な道具だと思うんです。誰とでも仲良くなれる魔法のアイテム。だから、それを無碍に使いまくれっていうのは、ちょっと違うのかなって気がします。敬語をしっかりと話せる人間でも「イエ〜イ!」と言った方が良い場面ではその方が適切で、要はTPOを考えて言動できるようになろうってことです。挨拶もウチでは強要はしてなくて、基本は「挨拶したい気持ちならばしよう」という考えです。もちろん形から入るのも良い方法ですが、挨拶したくなる関係性や心持ちを持つこと、適切な言葉や挨拶を選択できる方が大事なんじゃないかと思います。

桜井先生 幕張総合高校に赴任した当時のダンス部は、練習が始まるとすぐにお菓子タイム。これには参りましたが(笑)、生徒主導で運営しているし、何とかなりそうだと思っていました。まず指導したのは、時間を守ることと基礎練習の認識を変えること。大会で勝ちたい目的があるならば時間を効率的に使ったほうが良いし、基礎を積み上げればダンスが変わってくる。そうやっていくうちに、挨拶や服装なども自主的に良くなっていきましたね。

 

#2 関わり・繋がり
「もっと良くなっていこう」という姿勢が自然に

 


150名を超えるマンモスダンス部、千葉県立幕張総合高校の練習風景。弊誌が一番最初に取材した学校だが、基礎トレを共同責任としてしっかりこなし、ユニゾンの細部にこだわり、規律と礼節を重んじるその姿は、従来のダンスシーンにはないものだったが、逆に「ダンス部らしさ」を感じさせる光景であった。

ダンス部は他の部活に比べて、関わりや繋がりの幅が広い。それは、ダンスが競技であり表現であること。記録や得点ではなく、人の心を動かすことを目的としていることにある。ダンスを広く見てもらうためも、さまざまな人と繋がる必要があるのだ。

緒方先生 ダンス部の活動では、様々な「関わり」が持てることが何よりも本人の成長に繋がると思います。音楽との「関わり」、先生や先輩・後輩との「関わり」、保護者との「関わり」、部員同士の「関わり」。本校では作品創りを生徒たちに任せていますが、その過程で多くのものと「関わり」ます。本気で作品創りを行なえば、本気で音楽や人と向き合わなければなりません。それは希薄な「関わり」ではなく、かなり濃厚なものです。譲れないものがあれば、積極的に意見を出して主張しなければなりません。逆の場合はあえて意見をひかえて他者の意見を尊重することも必要となります。生徒同士がぶつかって対立が起こり、毎年のように何らかの問題が発生します。このような本気の「関わり」から学ぶことは、他の活動を通してもできるとは思いますが、ダンス部での活動は、このような本気の「関わり」をより体験しやすいのではないかと思います。

八木先生 ダンス部の改革の1つとして、イベントやボランティア活動に力を入れていきました。例えば、赤十字の募金や震災の募金活動など「世の中のために動く」ということです。老人ホームに行った時には、ご老人たちが高校生のダンスを見て手を握って泣くんですよ! その繋がりは生徒にとって衝撃だったと思います。保育所では、子供がまとわりつくほどなついてくれたり、病院の慰問では患者さんが元気になってくれたり。そこでは、自分たちの一生懸命が裏切られることなく、しっかり返ってくる。対象が望んでいることを考えて、そこに向けて一生懸命作っていけば、きちんと感謝が返ってくる。その経験の中で、やり甲斐や自己肯定感が得られる。それまで斜に構えていたダンス部員の姿勢が「もっと良くなっていこう!」って自然に変わっていきました。他の部活に比べてダンス部の場合は人と繋がれる面白さがあるんですよね。ダンス関係者だけでなく、地域やイベントの関係者、メディアや企業や役所の方々など、どんどん人の輪が広がっていきます。そしてイベントへの出演はコンテスト作品にも繋がります。審査員がどんなことを評価するだろうかってことを考えること。要するに、対象の心を動かすことですから。

神田橋先生 イベントや大会をやると生徒は成長します。挑戦すること、褒められること、反省することなどの経験を通じて、イベントが生徒を成長させてくれる。ウチはいろいろやるダンス部なんですが、基本は「楽しそうだからやる」「誘われたからやる」というスタンス。誘われるってスゴイことだと思いますから、断ったらもったいない。「頼まれごとは試されごと」と言いますしね。そして忙しくても「コレはやるけど、コレはやらない」という取捨選択も極力やらないです。会社ならばそういう選択をすべきなんでしょうが、ダンス部は教育現場ですからね。

 

#3 ゼロからイチへ
ゼロをイチにする作業が生徒たちにとって最も重要

 

ダンス部は歴史が浅いだけに「こうすれば良い」というようなメソッドが確立さ れていない。言ってしまえば、部の運営も練習も、すべてゼロからの始まり。そしてダンスの作品 作りにおいても「ゼロからイチ」への作業が非常に難しく、最大の面白さでもあるのだ。

桜井先生 幕張総合はコーチをつけません。創る部分を生徒が受け持つ。ゼロをイチにする作業が、生徒たちにとって最も重要だと思うのです。

神田橋先生 部員数も増えてきたせいもあって、ウチにはマネージャーや広報、映像担当など細かい役割を作るようになりました。SNSも頑張っていて、アナリティクスで分析して「この動画でこのぐらいフォロワー増えました!」みたいな新しいこともやってますね。

矢下先生 究極的には、機械やAIにできないことを人間がやっていかないと、と考えています。機械が勝てる方法を計算してプログラミングしたようなショーではない、意外性や創造性に富んだダンスを、生徒には作っていってほしいなと思いますね。

緒方先生 一つ一つのステップや技ができるようになると単純に嬉しいものです。それが常に味わえることがまずダンスの魅力だと思います。なりたい自分がイメージしやすいからこそ、休みでも練習をしたがる。例えば、他競技では部活が休みになると「嬉しい」という生徒が多い気がしますが、ダンス部では、休みに自身がやりたい練習ができるから「嬉しい」と言っているように感じます。また、作品創りを自分たちで行なうことで、いくら時間があっても足りない状況ができています。「ない」ところから「ある」を作る過程は苦しいものですが、それができた時の達成感は何物にも代えがたいものです。

 

>>後編へつづく
「#4 努力・成長・協力〜伸びる生徒は、素直で理解力に長けている」
「#5 アクティブラーニング?〜ダンス部の活動は能動的学習の実践」
「#6 ダンス部ならでは〜新体制と芸術性、カラダとアタマ」
「#7 ダンスで未来を切り開く〜ダンスは心にエネルギーを与えるもの」



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