【評論】ダンス部の教育的効果〜DANCEで創る未来を生きるチカラ(後編)

2022.07.11 COLUMN

ダンス部の教育的効果〜

DANCEで創る未来を生きるチカラ(後編)

 

>>前編より

「ダンスで若者が成長している」
「ダンス部の高校生たちは入部当初から見違えるほど成長する」
「元ダンス部の卒業生たちが、その経験をきっかけに自分の進路を切り開いている」
̶̶筆者が強豪校に取材に行くたび顧問の先生から聞く言葉だ。
ダンス部の活動には、若者の人格形成に大きな影響がある。
そして、新しい教育の可能性が潜んでいる。
今回は、強豪ダンス部を育てた5人の顧問の先生の意見と経験を
いくつかの観点で聞きながら、ダンス部と教育の接点を探っていこう。

インタビュー&構成:石原ヒサヨシ
『ダンスク!』39号記事からの転載

 

6人の強豪ダンス部顧問に訊く“生きた”DANCE×教育論

青木 郁美 先生(樟蔭高校ダンス部顧問)
緒方 浩 先生(北九州市立高校ダンス部顧問)
神田橋 純 先生(三重高校ダンス部顧問)
桜井 里枝子 先生(元・千葉県立幕張総合高校顧問)
八木 克容 先生(大阪府立久米田高校ダンス部顧問)
矢下 修平 先生(京都文教高校ダンス部顧問)

>>各先生のプロフィールはコチラ

 

#4 努力・成長・協力
伸びる生徒は、素直で理解力に長けている

 


2017年、筆者が大阪府立久米田高校を訪れた際の講習に聞き入る部員。彼女たちの真剣さ・純粋さ・集中力は、ダンス部でこそ培われたものだ。この経験を、きっと次のステージで活かしているに違いない。

 

ダンスとは表現でありコミュニケーション。だから、ダンススキルを向上させていく過程や部活動の中では、他の能力も知らずとシンクロしていくのだ。

緒方先生 ダンス部の魅力とは、本気になれること。同じ目標を仲間と共有し、無限に努力を続けられること。音楽に乗り自身を開放できること。他者との「関わり」の中で、自身の意見を主張したり、他者の意見を尊重したりすることができることです。

青木先生 ダンスをしっかりやると「伝える能力」が成長するでしょうね。私自身も、体操競技からダンスへ転向したのですが、その過程で表現する能力が自然と身について、人としゃべることや関わることが好きになりました。ダンスをやることによって、コミュニケーション能力が伸びるのは間違いないと思います。あと「このコ伸びるな」と思うコは、何かにこだわりを持っているコです。完璧主義者というか、自分がこうでありたいということを突き詰めていくコは絶対に伸びます。そして言われたことを理解する能力、その意味を考えながらやれる能力、さらには状況を察知して先に動ける能力に長けていますね。逆に、伸びない子は「雑」です。それはダンスだけじゃなくて、普段の挨拶にも掃除にも現われると思います。

八木先生 小さなイベントの打ち合わせでも必ず生徒を同席させて、私ではなく生徒の口からみんなに伝えるようにさせます。現場の下見などに同席させると、普段は自信のない子が堂々とその情報を皆に伝えるようになる。その経験で生徒はすごく成長します。

桜井先生 顧問について間もなく部員150名の大所帯になりましたが、常に部員一人一人を大事にする部活でありたいと思っていました。部を一つの船と考えて、部員全員がクルーとして船を漕ぐ意識です。そして初心者のエネルギーは部全体のエネルギーになるので、先輩や経験者はしっかり見てあげること。なるべく個性を大事にし、なるべく多くの生徒にリーダーを経験させることなどを大事にしました。ダンスリーダーだけでなく、運営の責任者、イベントや自主公演の各係(音響、照明、演出、その他)などなどがそれにあたりますね。

 

#5 アクティブラーニング?
ダンス部の活動は能動的学習の実践

 


三重高校OBである神田橋先生は、グイグイと生徒たちの中に入り、一緒に踊り、一緒に楽しむ。ダンス部出身の若い先生が顧問になり、新しい活動を展開していくことが、ダンス部の教育的可能性を広げることにも繋がっている。

 

教育界で導入が促進されているアクティブラーニングだが、その授業では課題も多いようだ。ダンス部では、まさにその実践があると先生方は語る。

矢下先生 アクティブラーニングとは「主体的・対話的・深い学び」なのですが、ダンス部の活動と通じるものはありますね。記録を争う競技では、それを縮める目的に向かうわけですが、ダンスの場合は自分の強みに特化して、弱いところを隠すことができる。勝つために工夫の余地がたくさんあって、それがまず主体的だなと思います。「こうしなさい」という教えが誰にとっても確実なわけではなく、どうすれば自分が伸びるかということから自分で考えなくてはいけない。たとえば「大会で勝つ」という目的に対しての方法は多様ですが、自分たちにとって一番合理で効果的なやり方を選択しなくてはいけない。これって、今の大学受験や会社の中でも一番求められている能力だと思うんです。簡単に言うと「非認知能力=数値化できない能力」を育むことができるんです。ダンス部では、それをチームで話し合いながら突き詰めていくことができますね。

桜井先生 今の教育は、インプットとアウトプットの比重で考えると、インプットのウェイトが強めでした。個人的には、アウトプットをもっと重要視すべきだと思うのです。ダンス部の活動は「机上の勉強を生き物にする」という意味で、教育効果は大きいと思います。

八木先生 アクティブラーニングの授業で話し合われているその問題は、生徒にとってあまり切 実ではないんですね。その時間が終われば忘れてしまうような、いわば机上の空論になってしまうことがある。でもダンス部にとっての問題、例えば大会で勝つとかイベントを成功させるというのは、部員にとってとても切実な問題です。それこそ一日中考えていると思います。問題解決学習においての問題が日々溢れている活動です。だからこそ、皆で真剣に話し合って、皆で積極的に考える。そこで身に付く力はまさにアクティブラーニングだと思います。その考え方や手法は授業で習い、その実践をできる場がダンス部なんじゃないでしょうか。

神田橋先生 ダンス部での話し合いを見ていると、生徒がマインドマップを描きながらやっていたりして関心します。ITツールもしっかり使いこなすし、アクティブラーニングの授業で習っていることをしっかり役立てているんですね。

 

#6 ダンス部ならでは
身体性と芸術性、カラダとアタマ

 

スポーツ的な側面と文化的な側面を併せ持つダンス部。だからこそ、得られる能力や社会に役立てる可能性は大きい。

緒方先生 音楽を楽しんで踊るという行為は、言語活動よりもはるかに古くから存在し、人間の本能的な活動だと思います。教育的な効果はもちろん、何らかの障害のある方でも踊りたいという欲求はあると思います。以前、知的障害を抱えた方々に対してダンス指導をしたこともありますが、施設の職員の方も驚くほどに皆さん楽しんでくれていました。どのような形であれ、自身を表現し開放するという欲求は、誰もが持っているものだと思います。このような面にフォーカスしていけば、競技だけではないダンスの魅力を教育活動に活かしていけると思います。

桜井先生 ダンス部ならではの活動の特徴は、身体的活動でありながら、創作の部分が重要である点ですね。舞踊だけではなく、音楽や装飾のセンスも必要。だから私としては、ダンス部は文化部に分類したいんです。

神田橋先生 他の部活に対抗するわけではありませんが「ダンスが一番ええぞ」って気持ちはずっとあります。お金がかからないし、どこでもできるし、一生できる。アスリート的な身体性も必要だけど、芸術性や音楽性も必要。得点や記録を目指すわけでもなく、お手本があるわけでもない。勝てる方法をゼロから考えなくちゃいけないけど、考えられる自由がある。既成概念をぶっ壊していく挑戦も面白い。カラダもアタマも、ダンスが一番高度なことをやっているんじゃないかなぁと思いますし、そこで若者が伸びていく能力も本当にたくさんあります。三重高校の場合、ダンス部は文化部にしているんです。やっぱりダンスはカルチャーだから。いつか、文化部が集まって「文化部総攻撃」みたいなコラボやってみたいですね!

 

#7 ダンスで未来を切り開く
ダンスは心にエネルギーを与えるもの

 

ダンス部員は全員がプロダンサーになるわけでもなく、実際は高校でダンスやめてしまう場合も多い。しかし、その経験はダンス以外に活かされていき、思わぬ形でみなさんの未来を切り開くお手伝いをしてくれるでしょう。

桜井先生 ダンスは芸術です。音楽と同様、これらは心にエネルギーを与えて浄化していくもの。教育と社会にはむしろ、心の健康のために芸術的分野を普及すべきだと思います。できれば一人よりもグループで。「音楽を合わせることは心を合わせること」ということに気づくだけでも、充分に社会で生きていけると思います。

八木先生 久米田高校の場合は、大会でも準優勝止まりが多いのですが、その時の生徒は卒業する頃には、結果についてはこだわっていませんね。結果は結果、やってきたことに意味がある。大学へ進学して就職面接する頃にも、ダンス部の経験を話すことが多いみたいです。「他の大学生にはない経験を私たちは持っている」って言ってます。

神田橋先生 卒業後の生徒には「面接に強くなった」という話をよく聞きます。国公立の推薦入試にもけっこう受かってますしね。高校生活に頑張ったこと、部活動の内容、イベントやメディアへの出演、仲間や外部との関わり方など、ダンス部の活動にはたくさんの話題や経験がありますからね!

矢下先生 私の考えでは、ダンスは「たかがダンス」なんです。学校やいろんな分野でとりあげていただけるようになりましたが、もっと軽いもので良いし、そもそもは遊びの延長だし、だから自由で面白いという魅力がある。「自由になりたいダンスにしばられてどうすんねん!」と言った先輩ダンサーの言葉も心に残っています。そういう気持ちは忘れてはいけないなと思います。そして、ダンスは一つのツールです。未来を切り開くツール。高校3年間の中で、ダンスを通じて見えた世界を次に活かしてくれれば良いし、もっと追求したい人は続ければいいと思います。

緒方先生 ダンスは、コミュニケーションツールとしてとても有用なものだと思います。一度でも一緒に踊ればもう仲間です。それにより言葉で語るよりもずっと人間関係が円滑になります。それは言語も国境も軽く超えてくれると思います。ダンスの持つ魅力を発信していくことで、まだまだ無限に可能性は広がっていくと思います。

 

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