【寄稿】ストリート最強ダンス部【桜丘高校】顧問「大ちゃん」〜歴史の先生が語るダンスの歴史

2024.12.29 COLUMN

今年から、ダンス顧問の先生方に寄稿していただくシリーズを開始する。
1回目は、愛知の桜丘高校ダンス部。
ストリートダンスにこだわる独自性と強さを誇る同校には、その熱いハートで部員から「大ちゃん」と慕われる「棚橋先生」の想いが中心にあるのだ。


25年前のストリートダンスは
文章が書かれていない教科書

 

高校ダンス部に20年近く携わり、中側から見えてくるもの、外側から見て感じるものが多々ある。

近年大会は乱立状態となり、どの大会でも「日本一」を名乗れるものになってきた。
大会によっては、それぞれのカラー、独自の審査等があり、本気のストリートダンスの大会があれば、異種格闘技戦の様に多種多様なジャンルがぶつかり合うようなものもある。


▲桜丘高校は、男子中心のブレイキン、女子中心のヒップホップのチームで活躍する。ダンス力の評価に重きを置く大会「チームダンス選手権」では、幾度も総合優勝に輝いている。
>>参考映像(チームダンス選手権レポート)
>>参考映像(桜丘高校の練習レポート)

高校ダンス部のレベルは確実に上がってきており、私が20年ほど前に創部創設した頃とは違い、ダンス自体が社会から認められ、学校でもダンスを募集の看板にして教育活動を広めていることも増えてきた。
また昨今ではプロリーグが設立され、オリンピックにもブレイキンが競技化されるなど、メジャーシーンにまで駆け上がっていったことは感慨深いものがある。

一方で私たち40代、もしくはそれ以前のダンサーはアナログな時代で、ダンスの情報を得るために必死になってその正解や技術を自らの足で探し出したことも思い出される。

レコードやカセットテープ、ビデオしかなかった時代に、私が初めて観たストリートダンスは映画『フラッシュダンス』のワンシーンである。
路上でブレイクダンスを行うシーンに衝撃が走った。
>>参考映像

「このダンスは一体何なんだ!?」

当時中学生だった自分は、その背中を床につけて踊るダンスに、思わず声が出た。

そして、高校時代に放送されていたダンス番組『RAVE2001』で、赤と黒の衣装を見に身に纏い、恐ろしいほどのパワームーブとスタイルを表現する大阪の無敵艦隊「BRONX」に心が奪われた。


▲当時のダンサーたちの愛読書『DANCE DELIGHT』マガジン表紙のBRONX(1999年)
>>参考映像(BRONX出演映像)

YouTubeやTikTok、InstagramなどSNSが普及していく中で、探したいものはいつでも見つけられる。しかし当時はその瞬間に見たものを、瞬時に記録することは困難であり、それをもう一度観たければ、自らの足でダンスの仲間を探し、そこで流れていた音楽やそのチームの名前、メンバー、どこで練習しているのかなど、汗をかいて情報を集めなければならなかった。

大学時代は、まだYouTubeもなく、仲間から貸してもらえたVHSのビデオを見ながらメモを取り、人間の形をした絵を書きながら、コマ送りコマ送りをしながらその技を書き留めた。

どうしても欲しい音楽があっても見つからない。そんな時はクラブに行って、DJの人に口ずさみながら「この曲ってわかりますか?」と聞いたこともあれば、ジャケットに「break beats」と書いていれば、ブレイクダンスの曲なのではとジャケ買いした記憶もある。大抵は間違っていたが(笑)、それもまた今となれば素敵な思い出となっている。

それが正しい情報かどうか、それはわからない。だけど、「もっと知りたい!」と言う意欲が、当時のダンサーたちの情熱をかき立てたのは言うまでもない。
間違っていたら間違っていたで、また新しく本当の知識を入れてくれる人たちが、当時我々の周りにはたくさんいた。だからこそ、自分たちにとってのダンスは“文章が書かれていない教科書”みたいなもので、常に真っ黒になるまで鉛筆で書き足していくことが喜びであった。

 

自分たちがやっているダンスは
どこからやってきた?!

 

ダンスに深く潜っていくと、様々なものが見えてきた。

地域によっては、ステップの名前が違う。ブレイクダンスで言う、トップロックは別の地域で言えば「インディアンステップ」と呼び、私が京都で師匠から習ったエントリーと言うステップは「ツイスト」と呼ぶ。
地域性があるのが面白い。その土地で、ストリートダンスを「守って」くれていた方がたくさんいるからだ。

以前、北九州市立高等学校の緒方先生とそのことについて話したとき、ハウスで使うドルフィンは、九州では「シャチ」と呼ぶなど新しい発見もたくさんあった。

私自身は、日本史の教員でもあり、歴史を教えることがすごく好きだ。授業中に脱線がよくあるのが私の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが(笑)、教科書の行間と行間の間に、歴史の裏話や面白さが詰まっていると子供たちに伝えている。

ダンスもまた同じことが言えると思う。
今現在高校ダンス部を見ていると、正直レベルの高さに私自身も圧倒されてしまうことがある。

ただ、すべての高校生に伝えたい。
自分たちがやっているジャンルは一体何なのか?
もしくは、なぜその曲を使っているのか?
なぜそのステップを踏んでいるのか?
…などを説明しなさいと言われたときに、果たしてきちんと正確に説明できる部員は少ないだろう。

なぜなら、私たち桜丘のダンス部も含めて、高校生はそれよりもレギュラーになることが大事であり、結果を残すことが重要だと思っているからだ。

ハードな練習をしていけば、当然シンクロ率やユニゾンのレベルも高くなり、ソロのスキルも上がる。ただし、一体自分たちが必死になってやっているダンスが何なのか?ということがわからないまま踊り続けている、ということほど寂しいことはない。

例えば海外に行って、自分の国に誇りを持てず、自らの国の素晴らしいところを説明できないときほど恥ずかしいことはないだろう。
歴史やバックグラウンドを知っているから勝てる、というような因果関係は保証できない。

ただ、それを知っているからこそ、一つ一つのフォルム、もしくは意識、自分を包み込むフレーバー(※自分を定義するもの)は間違いなく変わってくる。大会でそういうチームを見ると、私はたまらなくテンションが上がる。思わず大会中でもニヤけてしまうほど心奪われることはある。

ぜひ皆さんにはそんな“深い”ダンサーになってほしい。

 

ダンスで一番大切なのは

歴史から紡ぎ出される音楽

 

また、私はダンスの大会において、一番重要なのは、振り付けでもなく、音楽だと思っている。

これは私の考え方かもしれないが、8割が音楽で決まるって思っているからこそ、桜丘はいつもそこにこだわりを持つ。苦労して掘り当てた音ほど「ステップを乗せる価値」があると思っている。

だから私は、いつの大会でも、どの学校が何の曲を使っているかメモしている。
「やられた!」と思った曲は、時々その顧問のところまで行って、曲名を聞いたり送ってもらったりすることもある。
ここにも、ダンスの歴史やバックグラウンドから導き出される、そこに必要な、そのダンスに必ず合う音楽という方程式があるのだ。

こだわればこだわるほど、ダンスは深く潜ることができ、新たな発見とひらめきが生まれる。

桜丘のTシャツ・スウェット・パーカーには、グランドマスターフラッシュ、DJクールハーク、アフリカンバンバータら、ヒップホップのオリジネーターたちが描かれている。

入部してくる部員たちは、このTシャツに袖を通すことに憧れを持つが、この人物が誰かはわからない。
だから1年生には必ず『ニュースクールディクショナリー』(※ヒップホップの歴史ドキュメンタリー)を見せる。
>>参考映像

君たちが踊るステップのオリジネーターが今もなお活躍していることを知ってほしい、と毎年のごとく口うるさく伝えている。

ちなみに2023年のヒップホップの作品では、全員にLeeのブランドの服を着させた。
「なぜLee なのか?」これも懇々とその意味とルーツを伝えたことがある。

自分がダンス部顧問としてあと何年できるかわからない。
だけど、まだまだ知らないことはたくさんある。


先日は、ワークショップでKATSU ONEが本校に来てくれた。

本物に出会う喜びは私を童心に返し、時間の許す限り必死になってダンスのルーツや歴史を語るKATSU ONEさんもまた、童心に返っていたのではないかと思う。

事実、このワークショップを受けた生徒たちは、いま自分たちが踊っているブレイクダンスに、もう一つ何か目に見えないものを身にまとい踊っているような気がする。

勝てる勝てないは、二の次で構わない。桜丘はそれをしたい学校ではない。
大事なのは、カッコいいのか、カッコよくないのか
そのために我々は学ばなければならない。こんな時代だからこそ、自らの足で学ばなければならない。

それが学生の本業であり、高校ダンス部のさらなる飛躍のルーツになると私は確信している。

 

ダンスの可能性は無限
どんなジャンルでも踊ろう!

 

最後に。
ダンスジャンルは様々に広がりをみせる。Hiphop、pop、house、break、waack,
krump…。新たに生まれてくるジャンル、古くからストリートダンスの根幹を支えるジャンル。そのどれもが素晴らしく、みんなその魅力に魅せられていく。

それぞれに歴史やSTEPの意味があり、今日に至るまで進化を遂げてきた。

私のような、いち教員が語るべきことではないのは、重々承知。
ただ、それぞれのジャンルを踊ると見えてくることがある。

人類が海から陸にあがり様々な生物へと多様化、適応したように、ダンスもジャンルは分かれていても、どこかで似ていたり、呼び名が違っていたり、共通する部分があるのもまた面白い。

「私はコレしか踊れない」というスタンスも確かに重要。
ただし、「ダンス」という一つのジャンルで見たときに、その境界線は「ない」のである。

どんなジャンルも踊れた方が絶対楽しいに決まっている。

ストリートダンスの可能性は無限である。

桜丘高校ダンス部顧問:棚橋大介

▶︎桜丘高校ダンス部「MASTERPIECE」Instagram



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