【目黒日大】ダンス未経験の先生が25年越しに叶えた「日本一」【田邉先生】

2025.11.02 COLUMN

顧問の考え(第6回)
目黒日本大学高校:田邉先生


失敗からの軌道修正
そこで人間性が磨かれる

 

日本一だけを見続けて、苦節15年以上。
いや、先生個人としては25年に近い日本一の想いがあったのだ。

今年のチームダンス選手権小編成部門で、悲願の日本一を達成した目黒日本大学高校。
近年はニュースタイルに進化し、入賞常連校となるが、日本一まではあと一歩のところが続いた。
「解声(リリース)」と名付けられた今年の作品は、ハイダン2位、ダンスタ準決勝2位、DCC3位、ダンスタ決勝2位と、「あと一歩」が悔しいほどに続いたのだ。

「本当に、なかなか勝たせてもらえないな、という想いでした。特にダンスタ決勝2位の時は悔しくてしょうがなかったです」

ダンスタ決勝の特番では、舞台裏で崩れ落ちる部員たちを奮い立たせるように
「下を向いても何も落ちてないぞ。前を向こう!」
と涙を堪える先生の姿が映し出された。

「自分は競技としては、剣道と体操をやっていて、学生時代は本気で日本一を目指していました。教員になって、ダンス同好会の顧問を生徒からお願いされた時も、最初は断り続けていたんですよ。やるからには本気でやりたいから。部員が70名になって部に昇格した時に、本気で日本一を目指す部活にしようと決心したんです」

まず先生が取り掛かったのが、徹底した礼儀と規律。そして、体操のアクロバットを取り入れたヒップホップスタイルだ。

「日本一という目標を実現させる手段として礼儀と規律が必要なんです。そして一番大事なのが人間性。まわりから応援されるような部活、愛校心のある部員でないと、絶対に日本一になれないと思います」

確かに、都会の真ん中である目黒日大の練習はキビキビと規律と礼節を重んじているが、体育会系の伝統ではなく、あくまで部員の自主性の上で動いているのがわかる。

「自分たちで決めたことをやらせてみて、たとえ失敗してもいいんです。失敗からどう考えて軌道修正するか。その過程で人間性が磨かれる。そこが日本一を取るべく人の資質なのかなと思います」


乗り越えられない人には
壁は来ないもの

 

田邉先生は、理科の教員であることからか、何事も理論立てて考え、それを座学として部員に伝えているという。内容は、目的達成のためのメソッド、リーダー論、コミュニケーションの方法、メンタル作りなどなど。また、「人はどうしたら感動するか」を理論立てて解説する時もあるという。

「納得しないと生徒も動けないですからね。座学をやってすぐには変わらないけど、生徒の成長にともなってその捉え方が変わってくると思います。伸びる生徒のタイプは、素直な生徒。人から言われたことを受け止める力があり、他責にせずに自責にする強さがある生徒ですね」

OBでプロダンサーの「MATSURI」氏がコーチに着任してから、目黒日大は見違えるように生まれ変わった。独特の音取りやシルエット、ファッションに特徴のあるニュースタイルを取り入れ、都会育ちの部員の個性やパッションをより際立たせる作品へと変化したのだ。先生直伝のアクロバットを武器に、言わば競技性が強かったダンスから、アートとカルチャーを吸い込んだ目黒日大だけの最新スタイルへの変化だ。

「ダンスのことはコーチに任せていますが、どの競技でも重心や体幹のバランス、体の使い方は一緒ですから、その辺はケアしています。部員たちもコーチからもらった作品のニュアンスを磨いたり、気持ちを作ったりしていました。勝てない日が続くと、うまくいってない様子も伺えますが、こちらからは口を出すことはあまりないです。要は、「壁」というものの受け止め方なんです。乗り越えられない人のところには、壁は来ない。成長するためには壁が来て当然。自分が乗り越えようとしなければ乗り越えられないですし、乗り越えた経験が力になりますから」

今年、三度目の正直となったチームダンス選手権。ダンスタの敗戦から1週間のうちに、コーチたちは作品に大きな修正を加えた。
エンディングで横一列、全員が前方宙返り。場内は騒然。作品を見慣れていた筆者も一瞬で心を奪われた。封印していた先生直伝のアクロバットで鮮やかにフィニッシュし、「あと一歩」だった悲願の日本一を掴み取ったのだ。

インタビュー&テキスト:石原ヒサヨシ(ダンスク!)


★目黒日大、今年の夏大会へ挑む姿を追ったドキュメンタリー。

 

★田邉先生や中心部員による、優勝を振り返るトーク動画。



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