【創作ダンスの強豪校#2】帝塚山学院中学校高等学校〜古き良き体育会系から生まれる芸術性

2020.03.22 HIGH SCHOOL

創作ダンスの「表現力」

 

#2
帝塚山学院中学校高等学校
(大阪)

文=石原久佳(ダンスク!)
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写真=岡部守朗
※『ダンスク!』2020年4月号(3/15刊行)より転載

古き良き体育会系から生まれる芸術性


▲2019年のダンススタジアム優勝時の作品。シルエットと表情の揃い方が圧倒的だ。部員全員で臨んだこの時のチームは非常に士気が高かったそうだ。

帝塚山学院のダンススタジアム優勝時の作品は他を圧倒するクオリティだった。岡本太郎の反戦作品「明日の神話」をモチーフにしたその作品力、ダンス力の高さもさることながら、何者かが憑依したようなその表情は、これまでのダンスタにはない世界観と言えるものだ。
大阪市の閑静な住宅街にある帝塚山学院中学校高等学校。ダンス部も中高一緒に活動するので、最大6年間ダンス技術を高めることができる。創部は1991年で、神戸の創作ダンス大会では毎年入賞を重ね、ダンススタジアムでは出場2回目で優勝の快挙を成し遂げた。「部員全員で参加できる大会を」ということでストリート系であるダンススタジアムへの出場を決めたと言う。顧問は2名、それぞれが中学・高校を受け持っている。
「うちには技術力はないと思っています。スローガンは〝心を1つに〟。全員が気持ちを通わせて、帝塚山学院の世界観を表現できるかを重視しています」
練習を見ても、ジャズやモダンダンスの技術レベルの高さや、女子だけのリフトを可能にする体力は相当なものだが、技術向上に謙虚なその姿勢と、何より「気持ちのつながり」を重んじるのが帝塚山学院のダンス部なのだ。


▲女子だけでのリフトは帝塚山の作品のハイライト。創作ダンスにアクロバット的なアクセントを加えているのだ


▲練習前にはランニングを長めに行なう。ダンス部では珍しいメニューだが、踊り込み時の体力強化や下半身の強化につながるという。

「練習や話し合いの雰囲気は正直重たいですよ。決して、和気藹々という感じではない。そういうシンドさを乗り越えてからこそ良い表現が生まれるんだと思います。部員はみんな授業から部活に入ったら顔つきが変わる。スイッチが入りますね」
練習はペアを基本に行ない、少ない練習時間のなかで効率良く、規律正しく行なう。各動作の精度は高く、声出しもハキハキ、強豪校ならではの気持ちの良い練習風景だ。


▲ダンス部に入りたい生徒は練習の厳しさを覚悟して入ってくる。ダンス部は学内では尊敬され注目される存在なので、部員たちの意識やプライドも高い。


▲ペアでの練習が特徴。またストレッチの量も多く、精度も高い。大きな声出しで盛り上げながらキツい練習に取り組む。

「うちには良い意味で古き良き体育会系の良さがあると思います。芸術というよりも体育ですかね。規律を重んじる女子体育の伝統が部には残っていると思います」
体育と芸術、それらはベクトルが違うように感じるが、実のところ優れた芸術表現はストイックな取り組み方や、自律した集団から生まれるものだ。優れた芸術表現は部活では体育会系のノリから生まれる。ダンスにおいて芸術と体育は背中合わせと言えるのではないだろうか。昨今では体育会系部活動の問題がニュースになることがあり、その風潮もだんだん緩和されてきているというので、もしかしたら、女子校のダンス部は最後に残された古き良き体育会系と言えるのかもしれない。また、高度な情報化社会の中で、ある意味で鎖国的な純粋培養ができる女子校のダンス部は、流行に流されない軸のある人間を生む土壌となるだろう。
先の「明日の神話」だが、実は優勝チームが作った作品ではなく、その前の代から作られていたものだという。制作過程としては、まず部員全員が候補のテーマを持ち寄り、話し合いを経て「明日の神話」に決定。作品や岡本太郎についてさらに調べ、それをダンスに落とし込んでいく。テーマも振り付けのアイディアもまずは部員からの発信であり、そのパズルのピースを整えるようにコーチ陣が整えていくのだという。


▲部員たちはよく話し合いをしている。先輩後輩関係なく、とことん話し合うことでお互いの気持ちを近づけている。


▲入部者は中学生の頃から創作ダンスに取り組んでいるので、ダンス技術だけでなくテーマの見つけ方を学んでいく。先生に学び、先輩に憧れて、子供から大人の女性へと成長していくのだ。

また、創作ダンス大会の作品の尺はおもに4分であり、ストリート系は2分30秒。同じ作品を出す場合はまず尺と構成の調整をする必要がある。加えて「明日の神話」の場合は、曲もリズミカルなものに変更し、移動や場面展開もテンポ良く構成したそうだ。ストリート系ダンスとの大きな違いであるリズムの捉え方やグルーヴに関しては、根本的にノリ方を変えることはできないので、部分的に素早い動きを入れて対応したという。
創作ダンスでは、荘厳なムードの曲が使われることが多く、ビート感はストリート系のそれに比べると薄い。だからこそ、曲の合間を縫うように「動きでビートを作る」必要があるのだ。これは口で言うほど簡単なものではなく、動きの強弱や緩急で観客にビートを感じさせるわけだから、相当なダンス技術とシンクロの精度が必要だ。実のところ、ストリート系のダンス部は曲のビートの強さがダンス力の不足を補ってくれる面もあり、時にビートの強さにダンスが負けてしまっている場面も見られる。しかし創作系のダンス部は、静かで柔らかい動きも得意にしているので、その緩急のダイナミクスや呼吸感が豊かな表現力につながっているわけだ。モダンやバレエの技術に、創作ダンスの表現力。そこに「リズム」が加わればまさに鬼に金棒という状態と言えるかもしれない。加えて、帝塚山学院の場合は表情での表現力が並外れている。
「表情の練習はかなり重ねていきます。踊らずに表情だけの練習もしますし、踊り込んでいくと自然に表情も深まっていきますね。踊り込みの数だけはどこにも負けていないと思います」


▲踊り込みの回数はどこにも負けていないと自負する。その反復と修正によって、鬼気迫る表情が磨かれていくのだ。

先ほどの通り、帝塚山学院の作品は先輩から後輩へ「踊り継がれ」ていき、そこでさらなるブラッシュアップが重ねられていく。時には、グループに分かれて踊り込み、その仕上がりにコーチが合格を出すまで試行錯誤をさせるという。
「なかなかOKを出さないので、合格を出した時の喜び様はすごいですよ(笑)。形だけではなくて、イメージや気持ちが揃ってないとダメなんです。やはり〝表現〟が目的ですから、それに対しての不自然さや足りない部分がなくなるまでやります。気持ちと動きが揃っていけば、自然と表情も揃ってきますね」
帝塚山学院のステージを撮影した写真を見返してみると、まるで「ハズレ」がない。いわゆる「没カット」がほとんどないわけで、これは長年ダンスのステージ写真を扱っている経験としては驚異的なことなのだ。どの場面、どの瞬間にも、完璧なシルエットと表情が収まっており、その1つ1つはまるで絵画のようでもある。見た目だけだけではない。その作品にかけた気持ち・執念・魂が「表現」となって滲み出てくる。それが帝塚山学院の真骨頂ではないだろうか。

(樟蔭高校編へつづく)

 


▲取材日に指導に訪れていた3年生。ダンス部の成績が認められて国公立大学への推薦が決まったそうだ。


▲副部長、部長、マネージャーの3名。代替えした直後には、先輩たちがやってきたことの量と細かさを痛感したという。昨年ダンスタ優勝時のメンバーではあるが、プレッシャーを感じつつも再び頂点を目指す。


DATA

●創部:1991年
●現在の部員数:21名(高1〜2年)
●コーチ:1名(外部)
●練習日:平日4日間:16:00~18:00/土
●練習場所:体育館
●指導で一番大事にしている部分:自分たちで考え行動する。主体的に動けるように、
また、自分の気持ちの違いにぶつけ合える関係を築く。
●今後の目標:昨年のダンススタジアムでは優勝という結果をいただいたので、今年も
帝塚山らしい世界観を魅せつけられるように頑張ります!



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