基礎練・ジャンル練・応用練・振り付け練〜ダンス部の練習「4STEP」

2021.08.08 HIGH SCHOOL

ダンス練習の基本4STEP

ダンス部練習のやり方を考えていこう。王道的な 練習の流れの中に、チェックすべきポイントがあるのだ。

文=石原ヒサヨシ(ダンスク!編集長)

 

 

基礎練

①体力強化 ②型の習得
③コンディション作り

どんな競技でも基礎練習は存在する。プレイヤーがどんなスタイルや個性を持っていても、基礎の動きを正確にできることは不可欠だ。一流のプレイヤーですら、いや、一流だからこそ、練習での基礎練習の大切さを知っているのだ。

基礎には大きく3つの意味がある。1つはフィジカル強化。ダンスの場合、ストレッチ、アイソレ、 筋トレ、リズムトレーニングなどで踊れるカラダ作りをするのだ。可動域を広げ、筋力を上げ、軸と バランスを作り、その上で基本動作を反復する。

それによりその競技の基本動作=型を覚えるのが2つ目の意味。

その動きを繰り返すことにより、自分のクセやその日のコンディションをチェックし、 日々の積み上げで徐々に正しい形をカラダに染込ませていくのが3つ目の意味。

カラダを鍛え、基本を覚え、それをモノにする……この3つの意味が基礎練習にはあるということだ。基礎練にはゴールも卒業もない。意識を高くして日々積み上げること——これこそが基礎練の極意であり、サボると取り戻すのが大変なものだと思ってほしい。

本誌が取材に訪れるようなダンス部の場合、 しっかりと基礎練に時間を割いているのだが、「しっかりと正しく」やれているダンス部はそう多くない。例えばストレッチならば、体を深く屈曲することを気にしてしまい、ストレッチをかける部分に正しくかかっていない。固定する部位/動かす部位が正確でないアイソレを続けている。筋トレやリズトレの回数をこなすことに意識が向いおり、1回1回の強度が低い、などなど。

間違った形で続けることは基礎練の意味がないばかりか、ケガや故障にもつながるので、マンツーマンで チェックし合うなど、高い意識と正確性のある練習を行なってほしい。反復練習だからこそ「考えながらやる」ことが大事なのだ。

また初心者は、基礎とダンスが繋がっていない場合も多いようだ。これは基礎は基礎、ダンスはダンスと切り離している意識に原因があるのだろう。本来ならば、基礎体力や基本動作が向上すれば、ダンスは自然に上達していくもの。振り付けを踊り込んでもなかなかうまくならないという人は、一度基礎から見直してみても良いだろう。言うならば、基礎も振り付けのようにしっかりと形と全員の揃えを作ることが大事なのだ。

▲ストレッチ、アイソレ、筋トレなど基礎練のすべてを網羅した「毎日!DANCEトレーニング」

 

ジャンル練

ダンス部のスタンスが問われる練習

ジャンル練を行なうかどうかはそのダンス部による。

ヒップホップやジャズをメインにしているダンス部は、基礎練がそのまま各ジャンルに繋がっているのだが、それ以外のロック、ポップ、 ブレイク、ワック、ハウスなどのスタイルを習得するためには 「ジャンル練」の時間が必要になる。

ダンス部によって、部員すべてが複数ジャンルを行なうところと、部員の選択制にしているところがある。 筆者の見た中では、仙台城南高校や同志社香里などは部員全員が5~6ジャンルをこなし、自主公演でもその多彩さを感じさせ てくれる。1つのジャンル習得が他のジャンルにも影響することがあり、それぞれに相関する意味があるのだという。

また二松学舎大学附属では、ポップ~ブガルー~ハウス~ヒップ ホップを「ビートの捉え方」の違 いだと捉え、ストリートダンスの歴史的な流れや関連性のうえで 各ジャンルに取り組んでいるのが興味深いところだ。

あくまで一芸に秀でるべきか、 多芸多楽でいくべきか。あるいは「一芸に秀でる者は多芸に通ず」という諺もあるものの、器用貧乏・中途半端も良くはない。作品としても、複数ジャンルを構成することは、多彩さをアピ ルできる反面、印象が散漫になるなど裏目に出る場合もある。

部の方針もあるだろうが、ジャンル練を取り入れるかどうかは、 つまるところ自分とダンスの向き合い方によるとも言えるのではないだろうか。


▲二松學舍大学附属高校の「ビートの捉え方」(1:08

 

応用練

ダンスを演出する 表情と演技

ダンス部であまり応用練習という言い方はしないが、これは基礎練と振り付けの間にあるもので、ここにそのダンス部の独自性や特徴が表われていると言っても良い。言い換えれば、より実践的な基礎練習、振り付けを想定した基礎練習と言える。

フリースタイルと分類される独自の動きを目指すダンス部はこの応用練習に力を入れているところが多いが、もっとわかりやすい例で言うと、表情やアクティング(演技)の基礎練習がこれにあたる。

これらは 振り付け時点で振り付け師に要求される指導要素だが、ダンス部の場合はそのクオリティがダンスに比べて稚拙に見えてしまう作品が多い。

そもそも良いダンサーとは表情も豊かであり、そのダンスはまるで演技のようにも見える。ダンスを楽しむ姿勢や感情がそのまま表情や仕草に出ているのであり、それが本来の形であるのだが、初心者のダンサーにはこれがなかなか難しいところ。

ステージに対する不安や緊張がそのまま表情に出てしまったり、 表情をつけようとする意識が逆に 不自然さを生んでいたりと、せっかくのダンスを実力以下に見せてしまう場合がある。

表情や演技は一般層への親しみや伝わりやすさにもつながる部分なので「練習」として表情付けや演技の基礎を行なっておきたい。輪になって互いの顔を見せ合い、表情だけの練習をするのも良いだろう。歌詞の内容や喜怒哀楽を表情で伝えるのだ。声出しも感情を豊かにする大事な要素なので、練習中から声を出し、 普段から表情豊かに取り組むことも良いだろう。表情や演技だけでなく、振り付けに合わせた呼吸の合わせや、ウォーキング&ポージング、基本姿勢などもダンスをよりよく見せる 応用練習と言える。

▲創作ダンス系の帝塚山学院(上)や 光ヶ丘女子(下)の迫力の表情は練習から生まれる!

 

 

振り付け練

「揃える」ことと 「感じること」のバランス

ほとんどのダンス部で、基礎練のあと練習の最後に行なわれるのが振り付け練習。ダンサーにとって一番楽しい時間であり、大会やイベント前は、基礎練の時間を短縮して行なう場合も多い。

内容は、振付師による「振りうつし」から始まり、細かい「チェック」、各メンバーの「揃 え」、そして最後の「踊り込み」へと進んでいくことが通常だろう。

「振りうつし」では、まず8カウントごとに行ない、途中から曲を入れていく形だろうが、動きを擬音で表わしたり、曲のメロディや主音を歌って動きを伝えていく方法も考えたい(海外の振り付け師はこの方法が多い)。

「チェック」「揃え」ではより細かい動きや揃いを確認していく。少人数に分けたり、一人一人をチェックしたり、実物や映像を見ながら繰り返す。ここでは基本スキルが足りないと感じるならば、もう一度基礎練に立ち返っても良いだろう。

大人数での群舞を特徴とするダンス部は時に、「揃える」ことに意識を向けすぎる場合もある。そこで逆に疎かにされるのが、個々のグルーヴや音感、表現などの観点だ。プロのダンスチームを見るとわかるが、(基本スキルがある中で)音への感じ方や感情が共有されていれば多少のズレは気にならないもの。チームとしての「揃え」と個々の「感じ方」のバランスを取りながら、踊り込みを進めていくのが理想だ。

作品制作としては、最後に衣装やメイクをしての練習をして完成させるだろうが、 ほとんどのダンス部作品に足りないのが「仕上げ」の段階であり、成績を残していく ダンス部はこの意識が高い。一度できたものを見直す・疑う・再構築する勇気や執念が最高の作品を生み出すのだ。事実、何度 も日本一に輝いている同志社香里高校は、大会前日ギリギリまで作品を見直し、修正し、仕上げていくのだという。

最後に大事にすべきは振り付け師の苦労でも、それまでの練習量でもない。一番大事なのは、曲であ り作品。最後の最後まで、無私無偏、神は細部に宿る——そことしっかり向き合えたダンスであるかを真摯に見るべきなのだ。

▲大会直前、会場での最終チェックに余念がない同志社香里高校。

 

以上『ダンスク!』35号より転載



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