夏のダンス部大会直前「気持ちを1つに」最後の決戦に挑んだ感動ストーリー

2021.08.17 HIGH SCHOOL

 

<<前章へ

品女たちの葛藤と成長

4月になり新学期を迎え、アカリ、スウ、リナたちの代は、部活では最上級の高校2年生(5年生)となった。新入部員である中学1年生もかなりの数が入部してきた。まだ幼さの抜けない彼女たちを見ると、かつての自分たちの姿が重なってくる。

「私は経験者だったから、中1の頃『早く先輩たちみたいに大会に出たい。目立ちたい』って気持ちが強くて……ちょっと生意気だったと思います(笑)」(リナ)

中1からダンスを始める同期と比べれば、5歳からダンスを始めたリナには7年ほどのアドバンテージがある。プライドと自信があって当然だ。スウにはダンス歴はなくても新体操の経験が。アカリには水泳の経験こそあれどもダンスはまったくの未経験者だった。

品川女子の中等部は中学の大会(「ダンススタジアム」中学生大会と全日本小中学生ダンスコンクール)には出るが、実際に大会出場が本格的になるのは中2から。中学1年生はあくまで準備段階として、基礎練習や礼儀作法などを学ぶ。

「中1のときは挨拶とか礼儀とか言葉づかいとか、ダンス以外のことをたくさん先輩から教わりました。私は早くダンスをしたかったけど、今思えばとても大切なことを教えていただいたと思います」(リナ)

そして中2に入ると、それぞれに「自我」が芽生え始める。ダンス技術の差、練習での力関係、振り付けでの配置、誰がリーダーになるのか、などなどを各自がソワソワと気にし始めるのだ。

中学からリーダー的存在だったスウが振り返る。

「中学2年の頃は、私達の代はすごく仲が悪かったんです。私とアカリが学年の責任者になったんだけど、それを良く思わない人もいて……」(スウ)

そして、未経験ながらスウと同じく中学のリーダーだったアカリ。

「私が唯一誇っていることは〝練習をほとんど休んでいないこと〞なんです。休んだのはインフルエンザになった時と、オープンキャンパスに行った時ぐらい。……でも実は、毎日部活に行くのが憂鬱で、毎日休みたいと思っていた。だからこそ、負けたくないから、休まなかった。未経験者なのに責任者や部長になってしまったプレッシャー、みんなの仲の悪さや嫉妬、部活と勉強との両立、将来への期待と不安、いろいろなことを感じながら部活動に向き合っていました。それがなくなってきたのは、高1の最後ぐらいじゃないでしょうか。……あ、最近ですね(笑)」(アカリ)

 

勝つために、弱点を隠し武器を最大限活用する

今回で7回目を数える「日本ダンス大会」は、動画予選ののちに関東で決勝が行われる高校ダンス部大会だ。教育的要素は強いが、照明や演出が素晴らしく、審査基準と審査員のバランスも良い。品川女子も第1回大会から参加を続けている。年々、西日本からの参加校も増え、全体のレベル、特にダンス力においては厳しく審査されている。そして、6月の引退時期が多い公立高校にとっては3年生の集大成となる場合が多い。2年生が主体の品川女子にとって決して戦いやすい場所ではないのだ。

「『ダンススタジアム新人戦』を経て、また作品に修正を加えました。ストーリー性のある作品だけど、顧問の先生から『これでは伝わらないよ』と指摘される箇所がいくつもあって。センターである私がいけないのかな、とか悩みましたが、仲間が『リナが一番いいよ』と言ってくれて、自信を持てるようになりました。センターの私が自信を持ってないとダメですから」(リナ)

そして結果は――またしても入賞ならず。
出場47校中20位。審査得点の内訳をみると、
「ダンススキル:56・5、構成力:58・3、協調性:57・4、印象:59、教育的側面:61・2(70点満点)」となっていた。
作品力や印象は良いほうだ。ただ、ダンス力と協調性(ユニゾン力)が足りない。順位を見ると、やはりダンス力に秀でた学校が上位に来ている。ここにきて、またしても決定的な力不足を実感する品川女子であった。そこを自覚するからこそ、コンセプトやアイデアや自分たちらしさを武器にしてきたのが彼女たちの伝統でもある。しかし、どうしても超えられない上位への壁……。

 

実はこの後、筆者は品川女子を訪れ、簡単に作品へのアドバイスをしている。数カ月でダンス力が急激に上がる期待は現実的ではないだろう。であれば、アラを目立たせない方法をとるべきだ、と伝えた。

例えば、全国優勝に何度も輝き、社会現象ともなった「バブリーダンス」で有名な大阪府立登美丘高校は決して総合的なダンス力に秀でたダンス部ではない。初心者を含む公立高校の3年足らずの練習時間では、他を圧倒するような総合的なダンス力を身につけるのは難しいのだと登美丘のakane(アカネ)コーチもかつて語っていた。

そこで彼女たちが選んだのは、振り付けを完璧に踊りこなすこと、それを踊りきるだけの技術と体力を身につけること、振り付けの個性やテーマ性やスピード感で目を奪うこと。さらに、技術の高いメンバーをダンスで目立たせ、そうではないメンバーは構成やフォーメーションで上手に隠すこと。いわば、何でも踊れる集団ではなく「登美丘高校の振り付けを日本一うまく踊れる集団」に育て上げるのだ。

品川女子の今回の作品の場合、コンセプトに「ファッションショー」的な要素があったので、ダンスではなくポージングを強調していくことが得策だと筆者は考えた。いわば動ではなく「静」の部分。印象的なポージングの連続により、さも踊っている風に見せかける手法は、ダンスCMでタレントを使う際の常套テクニックだという。ポージングを印象的に、バリエーション豊かに、より力強くハメていくことで、ダンス力の不足をうまくカバーできるはずだ。

ちなみに、ダンスで言うグルーヴ(ノリのある高揚感)とは逆に、静から静へ移る「動」の部分をいかに表現するかの妙だと考える。緩急をつけたり、もたらせたり、加速度をつけたり、いわゆる黒人のソウルフルなダンスはこのニュアンスやタイミングで「らしさ」や「臭い」が生まれている。
もっと言えば、品川女子に限らず、今のダンスにはこの「動」の表現が全体的に不足していると感じている。現在主流のダンススタイルに見られる、止め絵の連続、瞬間移動的なキレの表現、移動の少ない上半身主導の平面的な動き。これらはダンス表現の場がSNS中心になった弊害(あるいは進化)ではないかと筆者は考えている。

 

リナを作品の主役に!

話を戻すと、品川女子の作品のもう一つの特徴、それは主役の存在だ。

大所帯が多いダンス部では、作品の中でユニゾンや踊り分けをすることが求められる。効果的なユニゾンもあればそうでないものもある。減点ポイントはやはり「揃っていない」こと。プロダンサーの中には「ビタ揃えすることがダンスじゃない。音楽を感じていればもっと個性があって良い」という意見もあるが、こと高校ダンス部のダンスにおいては協調性や練習量の現れであるユニゾンの評価は、やはりいかに細密に揃っているかに評価の重きが置かれる。ただ、そのユニゾンの精度を上げるのは並大抵のことではない。

また踊り分けに関しては、うまいダンサーを引き立たせるとか観客の目線を刺激的に散らす効果があるが、うまく構成しないと散漫な印象を与えてしまう。ダンスを見る観客の興味というのは勝手なもので、2分30秒の間でもちょっとしたアラがあるとすぐに飽きてしまうのだ。ノリがつながらない。ストーリー性が伝わってこない。衣装の完成度が低い。構成や曲のつながりが悪い。どこをどう見て良いかわからない、などなど。逆に完成度の高い作品は当然アラが少なく、2分30秒をあっという間の時間に感じさせることができる。

そこで興味の焦点を集中させる方法が、ソロパートを置くこと、あるいは主役を決めてストーリー構成するアプローチだ。ダンス部の活動では、「みんな一緒=フェアネス」に重きを置かれる風潮もあるが、勝つために、部員の公平さではなく「作品」を主役に置く意識を持てるならば、あるいはそれに相応しいメンバーがいる場合は思い切って選んでも良い手段だ。毎年全国トップを争う熊本の鎮西高校などはその手法でインパクトのある作品を残している。

品川女子の主役といえばリナだ。ダンススキル、印象、ルックス、エネルギー、部員からの信頼感など、それに値する人材と言えるだろう。ダンススタジアムの新人戦でも、日本ダンス大会でも、リナを見て「かわいい」という声が客席からいくつも上がっていた。

では彼女をより魅力的に見せ、それを作品の印象度につなげるにはどんな演出が必要だろうか。具体的には、作品のハイライトである、群衆を掻き分けてリナがティアラをつけて登場する場面。シンデレラ誕生の場面であるが、当初の演出ではその登場がそれほど印象的に伝わってこず、なんとなく駆け込んだ印象にとどまったのがもったいなかった。そこで筆者なりに具体的なアドバイスを伝えた。

手前味噌だが、ダンス作品の仕上げには「足りない部分を見抜く。それを補う方法を考えつく」という能力がとても重要だ。友人であり世界的ダンサーの黄帝心仙人も「ダンス作品のほとんどは〝仕上げ〞ができていない」と断言していた。過去日本一を何度も獲っている同志社香里高校も、大会前日ギリギリまでこの仕上げ部分に時間をかけている。ひとまず完成させるのが目的ではない。全員が納得できる形が必ずしも正解ではない。音楽が、作品が求めている、理想的なカタチを具現化するのがダンス作品の難しさでもあり、面白さでもあるのだ。

 

奇跡のダンスタ予選

「ダンス部人生の中で、『ダンススタジアム』で全国大会に行くのが最大の夢なんです。先輩たちが叶えてきた、あるいは叶えられなかった夢を追いかけて、中1からの毎日があると思います」(リナ)

参加チーム数700校近く、全国8カ所13日間で行われる地区予選大会(品女は「関東・甲信越大会」に出場)。約100チームが参戦する全国大会。今年(2019年)12回目を数える「ダンススタジアム」の全国大会は、全国のダンス部員の憧れ、いわば「ダンス部の甲子園」と言える。

パシフィコ横浜で行われる決勝大会への切符を手にする争いは年々熾烈を極める。昨年の決勝で活躍した学校がまさかの予選落ちをしたり、予選をダントツの成績で通過した学校が決勝ではまったくの低評価であったり、成績優秀のシード校もなく、「保証」がまったくないのがダンスタの怖さであり、面白さでもある。

品川女子の実績を見てみると、決勝大会に進出したのはこれまで6回。東京の私立では多い方であり、特別賞を受賞しているものの、上位入賞経験はいまだにない。当然、過去の実績や名声は審査に何も影響はしない。ダンスタ新人戦と日本ダンス大会での敗戦から来る不安と、それから修正を積み重ねてきた淡い期待。その二つの中でメンバーの心境は揺れ動いていた。ここで作品を切り替える学校もあるが、品川女子は「ミスコン」一本にかけた

「『ダンスタ』の予選はとにかく思い切りいこうと思っていました。『ダンスタ新人戦』と『日本ダンス大会』では悔しい思いをしたので、次は必ずやりきりたい。練習ではとにかく揃っていない部分を揃えて、テーマの伝わりやすさはもちろん、スキルの部分もできるだけ高めてきました」(スウ)

品川女子が出場したのは8月8日の初日Aブロックのビッグクラス。この日だけで41チームが参加し、全国への切符を手にできるのは優勝・準優勝・3位・優秀賞5校の合計8校。同じブロックには、武南、狛江、町田総合、東野、明大明治、川崎北、日大明誠、百合丘、鷺宮と、実力も実績もある強豪校がひしめき合っている。中にはダンス力に定評のある学校も多い。品川女子にとって決して有利な状況ではなかった。

「出番を待っている間は、他校の作品に圧倒されてしまって……、どんどん自信がなくなってしまうのですが、呼び出しがあってステージ袖に来た時には〝自分たちを信じてやるしかない!〞って気持ちになるんです」(リナ)

「踊っている時、ステージに出た時は覚えているんですが、あとはもう無我夢中で。あっという間に終わった感じと、楽しかった!踊りきった!って気持ちでした。賞に入れるかどうかはまったくわからなかった。……というより、正直自信はなかったです」(スウ)

パフォーマンスが終わり。いよいよ結果発表……。

「優秀賞は……品川女子学院!」

「は、はいった……全国!」と部員たちは客席で一斉に立ち上がり、歓喜の涙。顔中グシャグシャになって、綺麗に仕上げたメイクも涙で流れている。

アカリとスウは代表者としてステージに駆け上がった!

「やった、やった、やった〜!」

みんなを信じて、作品を信じて、品女を信じて、がんばってきて、本当に良かった!

2019年夏、品川女子に訪れた一つ目の歓喜の瞬間であった。

 

 

汗と情熱の夏合宿、雨と涙と、できなかった花火

決勝大会まではあと10日。やれることは少ない。でも、ちょうど4日間の夏合宿がある。「ダンスタ」の決勝に向けて踊り込みや修正をするには絶好の練習期間だ。

品川女子の合宿は、郊外の合宿所を借りて4日間行われる。参加するのは中1以外の約130名。

「練習はもちろんですが、部長の私は合宿を問題なく進行させることも大きな仕事なんです。合宿では大会練習以外に基礎練もやりました。今年は合宿の後にすぐ大会があったので、やる気が高かったと思います」(アカリ)

「大会メンバーの中で熱を出しちゃって参加できなかったコと足を怪我したコが練習についてこれなくなってしまって、それは大会出場ができないということなので……伝えるのが辛かったです」(リナ)

「合宿中にも振り付けを変えていくので、それは仕方がないことなんです」(スウ)

合宿初日の意気込みと不安を抱えたリナのノートにはこう書かれている。

8/10
今日は合宿初日。後輩にうまく指示が出せるのか、最高学年として
合宿を回せるのかという不安や、全国大会を控えた私たちの作品
をもっと良いものに仕上げられるのかという心配があるせいか、
お昼や、夜ご飯はあまりのどを通らなかった。
でも、最後の合宿というのもあり楽しみも沢山あった。
1日を終えた今、想像していたよりもうまくまわせたし、
後輩や仲間と過ごす時間が楽しかった。

合宿中の大会メンバーは、目の色を変えて練習に打ち込んだ。課題のある部分を指摘し合い、自分たちの武器である「女性らしさ」をいかに伝えるか何度も話し合う。

「そこ揃ってないよ!」「○○だけ遅れてる!」

名指しでの指摘の声もバンバン飛ぶ。気にするのは人間関係じゃない。

大事にするのは私たちの作品。

私たちの最高を出すためには、たとえ嫌われ者になってもいい。だって、後悔だけは残したくないんだ……。

「合宿の練習はかなりやり切れたと思います。ただ……、3日の夜に花火をやるのが恒例なんですけど、花火の袋を開けた瞬間にびっくりするほどの大雨が降ってきて……。花火ができなかったんですよ。開けたままの花火を見ていたら、なんだか悲しくなってしまって……涙が出てきてしまいました」(リナ)

涙も、汗も、情熱も、さまざまなエネルギーが交錯した合宿が終わり、8月16日のダンススタジアム決戦へ挑む――。

>>つづき



  • 新しい学校のリーダーズのインタビュー掲載!