夏のダンス部大会直前「気持ちを1つに」最後の決戦に挑んだ感動ストーリー

2021.08.17 HIGH SCHOOL

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ダンス部の甲子園へ!

全国大会の会場であるパシフィコ横浜は臨海地区にあり、みなとみらいの海をバックに直前練習する出場校の姿はダンスタの風物詩とも言える。

同志社香里、久米田、帝塚山……。いるだけでオーラが出ている強豪校に遠慮するかのように、広場の隅の方に品川女子の姿はあった。

「帝塚山学院が隣で練習していて、声出しや気合がすごいなと思いました。ウォーミングアップもすごいレベルだった。正直、ビビっちゃいました(笑)。ちょっと弱音を吐いたら『あなたがそういうこと言わないでよ!』ってチームメイトに言われてしまって……」(リナ)

緊張するのも弱気になるのも無理はない。あと数時間後にはこの大会場で自分たちが踊り、その数時間後には結果が発表されるのだ。そんな緊張をほぐすように、リナが中心となり本番直前のルーティンのアップをこなす。

「時間で〜す!」

スタッフの声とともに、各校が練習を終え、円陣を組み、掛け声を出す。その時、

「いくぞ〜〜!」と、ものすごい声量とエネルギーを放出して円陣を終えたのは、2連覇中の同志社香里高校だ。リナとスウは顔を見合わせる。武者震いなのか緊張なのか、震える手をお互いに握り合いながら、品川女子たちは「ダンス部の甲子園」である「ダンススタジアム全国決勝大会」のスターティングボックスへと向かった。

パシフィコ横浜の会場は広い。ステージも大きい。そして審査席は遠い。だから、いつものように踊っていては、自分たちの細さや小ささが目立ってしまう。より大きく、より表情豊かに、より鮮やかに。合宿で修正してきたことを思い切って出せば良いだけだ。

そう思いながらも、次々に現れる決勝出場校のパフォーマンスを見てしまうと、どんどん不安が覆いかぶさってくる。出番は51チーム中45番目だから、品川女子は十分に他校からのプレッシャーを浴びながら出場することになる。

「作品で特に印象的だったのは、やっぱり帝塚山学院でしたね。練習での気合も基礎トレもすごかったですし、演技中の集中力や表情や構成力など、自分たちにはないものをたくさん持っているなと思いました」(リナ)

そして、いよいよ品川女子の出番。これまで自分たちがやってきたものを、仲間との信頼とまわりへの感謝の気持ちをダンスに込めるんだ!

「舞台袖にいけば不思議と落ち着いた感じになります。いつもの気合い入れをやって、〝絶対大丈夫!〞と言い合いながら落ち着いて待機していました」(リナ)

「ステージに出た時は覚えていますが、あとはもう夢中で……。自分的にはミスもなく良い踊りができたなぁって思います」(スウ)

実際、品川女子のこの日のパフォーマンスは素晴らしく、課題にしていたポイントもしっかりと修正されていた。また作風に関しては、同様のコンセプトが被る学校はなく、大会でのある種の「潰し合い」にも巻き込まれなかった。彼女たちが表現したかった「女性らしさ」はきちんと観客や審査員に届いていただろう。

ただ、コンテストは常に相対評価だ。そして、ダンス部の大会はさまざまなジャンルのダンスが入り混ざり、審査員のラインナップによって差が出てくる。ストリート系が評価される日、エンタメ系がウケる日、芸術系が上位を占める日。あまりあってはならないことだが、実際に「ダンススタジアム」の決勝ではこういった傾向が毎年出てくる。

3連覇をかけたこの日の同志社香里のパフォーマンスは飛び抜けたものではなかったが、やはりすごい貫禄と気迫だった。帝塚山の表現力、久米田のパワー、堺西の高速の群舞、三重高校のフレッシュ感。印象に残ったチームを思い浮かべると、なんとなくビッグクラス上位は混戦模様が予想される。そして自分たちはどの位置に……?

結果発表は、関係企業が選出する特別賞から。この4校に品川女子の名前は挙がってこない。コンセプト系の作品だけに、ここで呼ばれないのは厳しいか……。

「優秀賞2校目、7位は……同志社香里高等学校!」

3連覇どころか同志社香里がなんと7位。ザワザワと騒然となる会場、涙をこらえてステージへ向かう同志社香里の部員たち。やっぱり厳しい戦いだ……。

残りの優秀賞、準優勝、優勝に品川女子の名前は挙がらなかった。優勝は大阪の帝塚山学院
創作ダンス出身で2度目のダンスタ挑戦で初優勝を果たした。

「まぁ、当然か……」

諦めにも似た気持ちで会場をあとにする、リナ、スウ、アカリ。審査結果は出場51チーム中で26位とちょうど真ん中。これは彼女たちのダンスにとって良い評価だったのか、悔やむべき結果だったのか。ダンスタの決勝に来れただけでも良かった、とはまだ思えない。モヤモヤした気持ちが残るが、まだ次がある。彼女たちにとって最後の大会、「全国高等学校ダンス部選手権(DCC)」だ。

 

主語は「私たち」

「悔いを残したくなかったから、ダメだった時に誰かのせいにしたくなかったから。同じ学年からダメ出しをされるのはイヤだったと思うんですけど、最後には遠慮なく言い合いました。私はそもそも選抜制にするべきだと思っていたから。上級生になれば自動的に大会に出られるという意識の甘さがイヤだった。それでも全員で出るんだって決めたのに、その意識の違いが『ダンスタ』の決勝の後にも出てきてしまったんです……」(リナ)

「私としては、できている人だけでじゃなくて全員で出ることに意味があると考えていました。その問題の子は最初『みんなに迷惑をかけるなら出ない』と言っていたけど、深く話し合って、最終的には『出たい』と覚悟を決めてくれたんです」(スウ)

多くのダンス部が抱える問題だが、ステージでは一枚岩に見えるチームも、その裏にはさまざまな人間模様が隠されている。スキルの差ならば、努力してサポートして補えばいいし、最終的には構成などでカモフラージュできる。だが、やる気=モチベーションが揃わないというのは、練習過程においては致命的な弱点である。小さな綻びはやがて全体に伝染し、最終的なステージで大きく影響してしまう。「気持ちを一つに」とはよく言われるが、そこは学生チームにとっては本当に難しく、しかし、高校ダンスの意義として一番大切な命題なのだ。

学生だから学業第一。それは当然だが、部員全員がそれぞれに抱える課題でもある。そこを練習態度や技術不足の言い訳にしてしまえば、軋轢(あつれき)は起こるだろう。「私の場合は」とか「私だって」とか、主語が一人称で飛び交う話し合いではエゴのぶつかり合いになってなかなか折り合いがつかない。事情という名のエゴ。エゴには、怒り、憎しみ、不安、不満、嫉妬、傲慢、執着などネガティブな感情が根っこに存在する。だからこそ「私たちにとって」という主語での話し合いや調整、判断が必要だ。そこに気づくことが、これからも組織の中で生きていく学生にとっての大きな成長につながる。協調性、調和、チームワーク。ラグビーで言えば「One for All, All for One」の精神を得ることなのだ。

スウが言う「深い話し合い」の翌日、筆者は品川女子を訪れた。三人はわりとスッキリした表情で前日の話し合いを振り返る。

「昨日、真剣に話し合いをして、後列も1列目だと思ってやらないといけないとか、スキルの差や意識の差がまだあるんじゃないかとみんなで意見を言い合いました。具体的な課題がいろいろ出てきて良かったですね」(リナ)

「何度注意しても直らない部員もいるし、怪我のせいにして改善しない部員もいたから、やる気を確認しました。本気で大会に出るつもりがあるのかなどについて話し合いました」(アカリ)

その後、「ダンスタ」での映像を振り返り、さらに細かい部分の指摘をし合う。中心になるのはリナの分析力と意見の強さだ。遠慮なく個人名を出して、足りない部分を指摘する。それを論理的にまとめるスウ。ムードを気にして言葉を添えるアカリ。見れば、幹部として非常に個性のバランスが取れた三人であり、そこを中心にチームが一つにまとまりつつある。

「気持ちを一つに」

結果だけではない。「DCC」は、中学から5年間の苦楽をともにしてきた仲間との真のチームワークを完成させる場所でもあるのだ。

 

いざ「最後の決戦」へ

「DCC」の会場は「舞浜アンフィシアター」。「東京ディズニーランド」に隣接する施設なので、地方からの参加校にとってはディズニー観光もセットにできる楽しみもある。が、心境はそれどころではないだろう。例年と違って、今年の「DCC」はダンスタ決勝のあとの日程で行われる。ダンスタの雪辱に燃える学校がいくつも出場するのだ。3連覇を逃した同志社香里、強烈なグルーヴの柴島(くにじま)や久米田。ストリートの京都文教、京都明徳、三重、北九州市立。表現力の高い汎愛(はんあい)、山村国際、日大明誠。東京勢には狛江、駒澤、目黒日大。そして話題の登美丘は昨年の優勝校だ。そのどれもが優勝候補に思えてくる。

会場はすり鉢上の円形ステージなので、審査席からはやや見下ろす形で、客席は180度の範囲に広がる。直線的に見られる通常のステージとは違い、広角的かつ立体的に演舞をアレンジする必要があるのだ。

また「DCC」が他の大会と大きく違う点は、「漢字二文字の表現性」を大きな審査点としていること。「JSDA(avex)」が主催するだけあり、過去にはエンタメ性の高いダンス部が高評価を得ている。品川女子が選んだ二文字は「美魂(ミスコン)」。有終の美を飾るにはもってこいの大会だ。

さらに今回から大きく変わった点が審査発表のタイミングだ。通常はすべての演舞が終わったあとに集計があり順位が発表されるのだが、今回は演舞ごとに審査員の得点を回収、即座にビジョンで得点とその時点でのベスト3が発表されるという進行に変更された。序盤に出場しベスト3を外れていくチームには気の毒だが、イベントとしては非常にスリリングで劇的な場面が作れる、「avex」らしい演出だ。

品川女子の出番は12番目。出場順はくじ引きだが、自分たちの位置を冷静に見て、出場36チーム中で大体12位のスタートという状況と思って良いだろう。

「少しでも、一つでも順位を上げてやる。そして今日こそ、ステージで表彰状を受け取るんだ!」

そう決意して品女のメンバーは舞台に臨む。

品川女子の出番直前までで、1位は大阪の汎愛高校(表現力37点/技術力24 点/独創性15点=76点)、2位と3位は狛江高校の2チームがランクインしている。

いよいよ出番。

今年4回目。最後で最高のダンスを、最高の仲間と一緒に――。

「全部出す!」

リナの掛け声がチームに火をつけ、スウが黙ってうなずく。アカリが部員一人ひとりの顔を見渡した。うん、みんな良い顔をしている。いろいろあったけど、やっぱり最高の仲間だ。ぶつかり合ってきたみんなと、こんな素敵なステージで最後を迎えられる。不思議な幸福感と満足感とともに28人のメンバーはステージのスポットライトに包まれていった――。

 

「品川女子学院……表現力37点、技術力19点、独創性16点。合計72点!」

「暫定2位です!」

 

そのアナウンスでステージ上の彼女たちは歓声を上げ、飛び上がり、抱き合って喜び、泣き崩れた。

たとえ一瞬でもいい。束の間の喜びでも構わない。やっと、やっと、チームが一つになれた……。

「気持ちを一つに」

この夏、二つ目の歓喜の瞬間。彼女たちはついに、最終的にも12位だったという結果以上に、大きな、大きな、一生の宝物を手に入れたのだ――。

 

エピローグ〜後輩たちへ

その約1カ月後。彼女たちの姿は学校の体育館にあった。

品川女子の文化祭「白ばら祭」でのダンス部のステージは花形的な存在だ。

以前は、観客が溢れてしまったために朝の時間帯に変更されたというが、それでも体育館は満席の状態。文化祭はこのステージで最後となるアカリたちの代は、来年は後輩たちにバトンタッチすることになる。

「リナー!」

人気者のリナに声援が飛ぶ。
入学を希望している小学生の女の子が彼女たちを羨望の眼差しで見つめている。

そう、かつてのリナ、スウ、アカリのように。

初心者から部長になったアカリ。将来はダンス部生活の5年間を活かせる職業につきたいという。

「私みたいに5年の間で努力をして前の列になった人もいるから、後輩にはめげずにがんばってほしいです。団結の素晴らしさとダンス部を続ける大切さを伝えたいです。私もツラくてやめたい時期がありましたけど、本当に続けてきて良かったです。続けていたら、きっと、全国大会へ行けるまでになれますから」

体育祭の実行委員長と副部長を兼任したスウ

「私は伝えることやまとめることが好きだから、将来はメディア系の仕事に興味があります」

5年後、きっと彼女なら持ち前の実務能力とセンスで良い仕事をこなしていることだろう。

そして4年半の間、ぶつかり傷つきながらも最後まで自分の想いを貫き、センターとしてダンスリーダーとして逞しく成長したリナ。病弱な母親の姿を見て育った彼女は将来、看護師を希望している。

「後輩たちには、自分たちの強みを生かした作品を作ってほしい。独創性や品川女子らしさ。強くて、美しい女性像をダンスで表現してほしいです」

品女たちの夏が終わり、ダンス部の4年半で得た大きな宝物を胸に、彼女たちは新たな旅立ちを迎える――。

2019年9月

取材・文=石原ヒサヨシ

 

 

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02 三重高等学校(三重):「謎の勢い」を作った熱血顧問とキラキラセンター
03 千葉敬愛高等学校(千葉):「敬愛一家」が守り抜く「自主」の軌跡
04 広尾学園高等学校(東京):進学校でぶつかる二人の個性
05 大阪府立久米田高等学校(大阪):「日本一」から「つなぐ」へ
06 大阪市立汎愛高等学校(大阪):完全自主、喜怒哀楽「汎愛の伝統」
07 大阪府立堺西高等学校(大阪):凜とした女性らしさ「堺西」
08 同志社香里高等学校(大阪): 3連覇へ向けて絶対王者の「絶対評価」

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