【特集】ダンス部大会を考える#2「顧問とジャッジの意見」
2024.09.02 HIGH SCHOOL
ダンス部大会を考える#2
学校教育活動の一環として行なわれる部活動は、当然、教育的でなくてはいけない。その意味で、教育者である顧問の先生たちが、ダンス部大会をどう捉えているのだろうか?
各大会が健全に運営されるために、ダンス部の活動が未来の教育像につながるために、ここで真剣に考えていきたい。
(『ダンスク!』2024年8月号記事より転載)
顧問アンケートDATA
大会について、ダンス部を見守る 顧問はどう思っているのか?
200校のダンス部顧問に アンケートを取った。
*全国200名のダンス顧問からメールアンケート
都道府県
◎東京>26%
◎大阪>13%
◎埼玉・神奈川>4%
公立/私立
◎公立>43%
◎私立>57%
参加している大会
◎ダンススタジアム夏の公式大会>70%
◎ダンススタジアム春の公式大会(新人戦)>55%
◎チームダンス選手権>53%
◎DCC (全国高等学校ダンス部選手権)>51%
◎ハイダン(HIGH SCHOOL DANCE COMPETITION)>49%
◎高校ストリートダンス選手権/ 高校ストリートダンスグランプリ>34%
◎ダンススタジアム冬の公式大会(バトル)>26%
◎ミスダンスドリル>5%
◎全日本高校・ 大学ダンスフェスティバル>13%
◎右記以外>26%
過去に参加していた大会(現在は未参加)
◎ダンススタジアム夏の公式大会>21%
◎ダンススタジアム春の公式大会>18%
◎DCC>18%
◎ミスダンスドリル>12%
◎高校ストリートダンス選手権/ 高校ストリートダンスグランプリ>11%
◎USAジャパン>7%
◎ダンススタジアム冬の公式大会>6%
◎チームダンス選手権>1%
◎ハイダン>1%
◎全日本高校・大学ダンスフェスティバル>1%
◎右記以外>14%
大会参加を決める際に重視している点
◎スケジュール>81%
◎規模>60%
◎審査基準>53%
◎伝統(継続的に参加)>36%
◎その他>11%
大会参加をやめる際に重視している点
◎スケジュール>72%
◎審査基準>46%
◎その他>33%
大会の教育的意義
目標
活動の成果を発表する、目標となるものだと思う。
人間形成に大きな力となっている。
作品に込めたものは、高校人生そのものだと思うので、日頃の成果を発表できることは幸せなことだと思う。
かつては文化祭などの校内発表がメインだった高校ダンス部にとって、他のスポーツのように青春をかけて勝ち負けの世界で熱くなることができる、本当にかけがえのない機会だと思う。大会で勝ち負けがつくからこそ、必死に努力し、必死に考え、衝突しながら前進することを学ぶので、とても良い成長の機会となっている。
地方のダンス部だが、今年度から大会参加に挑戦する。地方においてもダンスに興味や関心を持つ生徒が増えていることから、各種大会を目標やモチベーション向上のための機会として重視している。
学び
他校の作品を見たり、審査員の方の評価や講評をいただくことで、他人と自分との考えの違いを学ぶことのできる場だと思う。
大会があることで、多くの観客に観てもらうことが保証され、チームの団結力や普段の練習のモチベーションのアップ、大会を終えての達成感につながっている。また、生徒主体で大会への取り組みを進めさせることによって、思考力・判断力などが鍛えられ、コミュニケーション力を育むことにもつながっている。また、他校の行動を見ることで、礼儀作法や集団行動の参考にもなる。
大会ありきのダンスにならないようにし、ダンスをダンスとして楽しむことが大切だと思っている。大会を目指す姿勢はもちろん大切だが、それがいきすぎてしまわないことが、学生だからこそ大切だと考える。
一番大きいのは精神面の成長だと思う。大会の練習に入る前にいろいろな意見を出し合い、時には誰かを傷つけてしまうこともあるが、全体にとってベストなアンサーを出していく重要な話し合いができる。課題解決能力が大会出場によって養われる。
ダンスの性質上、他と勝負をしなくても自分たちの舞台を作ることが可能で、お客さんさえいれば舞台は成り立つと思うが、そこに一定の質を求めるにはやはり勝負の世界に切り込む精神性が必要、その意味で大会は部の成長に欠かせない。
たくさんの大会に出場することで、自分たちのチームがどう評価されるのかの違いがよくわかると思う。いろんな角度からいろんな人に見てもらうこと、アドバイスをしてもらうことの大切さや、意見を受け入れる謙虚さを今後の人生でも大切にできるようになってほしい。
社会性の獲得。勉学との両立の努力の方法の練習。
表現
大会があれば勝ち負けにこだわって、一喜一憂してしまうと思うのだが、ダンサーとして表現者として、「表現したいことをこだわって表現した」という事実があれば、たとえ負けようとも胸を張ればいい。「ダンスを楽しむ」姿勢を純粋に感じてほしい。
一つ一つの大会の結果や日本一の称号も尊いものだが、それを越えた価値を日ごろの活動の中で作り出すことができないかと考えている。
絶対的な「正解」が無いからこそ、客観的に評価してもらうことは成果を確かめることになる。どんな評価軸があろうと、ブレずに「自分たち」を表現することができる場なのだと思う。
結果
みんなで同じ目標に向かって努力できる場。模試のように自分たちのダンスを客観的に評価していただくと同時に、他校の作品を勉強する場。
もちろん過程も大事だが、真摯に努力したことだからこそ結果が出て、それを受け止めることで自分たちで自分たちの望む未来をどうしたら手に入れられるか考えられる。自分たちでどうにかしようともがくための一つのツールとして大会をとらえている。
感動
作品を自分たちで創り、考え、悩み、そこに逃げずに立ち向かう力や、それぞれの責任感、何事も楽しむ力など「ダンス」を通して人として大切なことを学ぶことができるのがダンス部大会だと思う。また、人を感動させる素晴らしい体験もダンス部大会の良さ。
最近は大会でライバル校との友情も芽生えたりする場面もあり、貴重な機会と感じている。
審査基準・規定など
審査基準
特に、衣装の審査項目があることで、今のダンス部大会独特の雰囲気があると思う。項目別に分ける競技的な審査ではなく、「専門家がぐっとくる」というような文化的な審査のほうが、ストリートダンスには合ってるのではないか。
ダンス自体のスキル点は、他の審査基準よりも配点を上げても良いのでは?
審査基準や規定はあまり重視していない。なぜなら、良い作品は誰が見ても心を打つ、良い作品であるということ。それは、どんな審査基準でもクリアすると思う。
審査基準や審査項目を把握できていない審査員がいるように感じる。運営側に精細な打ち合わせをお願いしたい。
大会の審査基準が毎年変わらないからこそ、勝者に価値が出て、大会としても作品としても洗練されていくのだと思う。また戻される審査シートを見て、何をもってその点数なのかがわからないことが多く、部としてもその反省を次回に活かしにくい上、正しく評価をしてくれないという不満につながりやすいように感じる。やはりどこまで行っても評価は主観によるものなので、尚のこと「誰が」「何を」のこの二つの部分は軽んじてはならない。
「創作ダンス」と「ストリート」の良さはそれぞれ独立で別にあるものと感じている。ストリートの大会で創作ダンスの伝統校が上位入賞するのは、個人的には違和感を感じる。
高校生たちは真っすぐに自分たちのダンスを追及している。透明性のある審査を要望したい。大会の派手さより審査に重点を置いてほしい。
項目ごとに分ける審査は賛成できない。本来はダンスを見るのがプロのジャッジであり、項目別審査では全員がダンスをしっかり見ることができない。
SNSの「いいね」数や再生回数を競わせる風潮は、教育的ではないと思う。
全体のレベルの高さや多様化に伴い、ジャンルレスの審査の難しさを感じる。審査員によって結果が違うことがより多くなった。
事前に示された審査基準に対して、点数やコメントなどのフィードバックがある大会はとてもありがたい。その年度は入賞に届かなくても、改善できる明確な課題を受け取れるのが助かる。
健全な部活動の大会として考えれば、可能な限り商業利権が審査に(大会結果に)影響を及ぼさない大会が望ましい。
踊る技術が低くとも、他の審査項目で得点を稼いで勝ててしまう審査方式は「ダンス」部の大会として考えれば破綻している。少なくとも「ダンス」が上手いチームが勝てるような大会になるように制度設計をしなければ、例えば衣装を作る活動が「ダンス」の練習よりも優先されることになってしまう。また、「作品を練習する」のではなく、「練習したことを作品にする」べきであり、「揃えるための練習をする」のではなく、「練習した結果揃う」べきである。他の競技と同様に、練習の質や技術の巧拙を競える大会であるという当然の様相になることを望む。
それぞれの大会で重視する審査基準はある程度異なっていても構わないが、年ごとに審査基準が違うと対策が立てられないので、毎年ある程度は同じ審査員にしてもらえると助かる。
どの大会においても順位を知りたい。また、各チームに審査員からのひとことコメントなどをいただきたい。審査員から見る課題点や良かったところを知り、次に活かしたい。
各大会の違いや変更や違和感など、それらも含め対応し、作品を出していくこともダンス部という組織の力が問われていると考える。生徒たちが目標にしている以上は、顧問としてはその挑戦をサポートしたい。
規定
過去に入賞した同一の作品で、同一の大会に出場することは規制してほしい。その流れが定着してしまうと、生徒の創造性が育たず、大会自体も見応えのないものになってしまう。
予選が複数回ある大会については、審査基準が同じでも、毎回ジャッジが変わることが多く、ある予選では評価されたポイントが別の予選では低く評価されるなど、作品をどう改善するべきか、難しく感じることがある。
部活動の大会で、放映や配信の都合で制約がかけられるのは本来的ではない。顧問にとって優先順位が高いのは、(楽曲の選定も含めて)望ましいダンスの追究を通じて生徒が成長することであり、大会主催者が放映・配信することではない。
メディアの影響によって大会は大きくなっていくことは素晴らしいが、そのため規定が増え、特に音楽は著作権問題が難しいと感じる。
エントリーフィー
生徒の負担は大きいが、運営のためには必要だと認識している。
予選を何度も挑戦できる大会での、エントリーフィーその他経費の出費が大きい。生徒たちは何度でも挑戦したがるが、中には家庭の事情で出費が難しい生徒もいる。多くの学校にチャンスを与える意味では、予選1回限りの方が良いのでは?
エントリーフィーは安い方がありがたい。地方からは、バスや電車で移動するだけでもかなりの金額がかかる。
高校ダンス部の規模が大きくなり、そこをビジネスチャンスと捉えられている気がする。エントリーフィーも安くはないので、これからはそれぞれの学校が大会を取捨選択していくことになると思う。
大会について思うこと
懸念
ダンス部とメディアとの関係性もさらに強くなりつつあるのか、大会のショービズの色が濃くなりつつある。 ダンスとは関係のない「いいね数」や「再生回数」などを稼がせ競わせるような大会のルールも多く、ダンスではないところで勝ち負けを感じ一喜一憂している様子は、教育者としてどう声掛けをしていいのか難しい。
公式を名乗る大会が多いと思う。高校生にとっての本当の意味での公式は何かと考えさせられる。
コーチ
高校生だから出てきたエネルギーや青臭い振付などをたくさん見られる場所として、高校ダンス部の大会は独自の進化をしていて、最初の頃は面白かった。が、最近はプロダンサーが外部コーチなどで入り込む高校が増えてきて、高校ダンス部の作品を見ていても「プロの香りがプンプンする」と思ってしまい、少し残念に感じているところだ。
外部コーチ作品のコンペのようになっており、高校生の大会にどこまでプロが手掛けるのか見直しが必要ではないかと思う。
ダンス部の大会が競技として洗練されるほど、そこで踊っている学生よりも、プロップスや作品性の戦いになり、コーチや作品の制作者の質の戦いになっている印象を受け、ストリート出身者としては少し寂しい思いがする。
コーチのプロとしての立身出世のために、ダンス部の作品で目立とうとする風潮もあると思う。作品はあくまで学生のもの。ダンス部に関わるならば、コーチもいち教育者として、生徒から可能性を引き出す意識を持ってほしい。
バランス
正直なところ、あまりにも大会が乱立してしまっている今の状況は好ましくない。いわゆる全国大会と言われる大会の数も増え、どの大会が権威を持った大会なのかがわかりずらくになっている。乱立することでお互いに別の大会の価値を下げてしまっているようにも感じている。生徒たちのモチベーションや目標設定、様々な達成感などを考えると、シーズンごとに分けて開催するなど、1つ1つの大会の権威を高めてほしいと思う。
出演者が勝っても負けても気持ちよくなれる審査であること。そのために大会の特色、主旨を明確にすること。それに沿った審査項目を設定、審査員を選出することが大事。
特にこの夏は大会が多すぎる。地方の学校は、何度も東京方面に足を運ぶことになり、費用も相当だと思う。
大会常連校と、大会出場が少ないダンス部の実力格差が広がっている。底上げや裾野を広げるような大会やアドバイス会などがあっても良いのでは。
予選
地域によって参加団体の数が違っており、母数が少ない方が有利だなぁと正直思ってしまう。
他競技のように、各大会のスケジュールや審査基準などを取りまとめる機関の必要性を感じる。
他スポーツと同様に予選と全国大会の間に県大会や関東大会のような合間の大会が開催されるようになると、地区大会で勝てるかどうかのような学校にも段階的な目標が出来るように思う。
予選大会前に全国大会のチケットを販売する点を改善してほしい。
提案
昨今は大会が異種格闘技戦のような状況になっており、もう少しカテゴリーを分けるべき。
大規模な大会だけでなく、高校からダンスを始めたビギナーの子たちが参加しやすい大会があると嬉しい。
先生と生徒の2on2バトルや東西対決など、学校だけの対決ではない、コミュニティや文化を育む大会があっても良いのでは?
抽象的なテーマの作品が勝ちやすくなっており、大会全体としてしっとりとした(盛り上がりにくい)雰囲気になってきているので、単純に高校生のもっと明るい、元気な姿が見たい。
大会それぞれに特色や価値があるが、それこそが「ダンス」が持つ多様性の現われなのではないかと考える。各校のそれぞれの状況下で出場する大会を選んでいければ良い。
ダンス部もこだわりも持って自分たちのスタイルを作っていくので、大会側も審査基準も運営方法もとことんこだわって欲しい。似たようなものばかりになってしまうほうが良くない。魅力がないコンテストやイベントは自然淘汰されるのだと思う。
どの大会でも点数、順位を明確に出して欲しい。 オリンピックのブレイキン同様、一般層にわかりやすく伝えるために、専門メディアや評論家の必要性を感じる。『ダンスク!』さん、石原さん、がんばってください!
様々な芸術分野から審査員を選出することが、ダンス部の文化も広がるのでは?
著作権の問題に苦慮している。困ったときの相談機関等の案内があったら助かる。
出場人数に対してなど、学校あたりの応援席を用意してもらえると嬉しい。
高校生ファーストであってほしい。
すべての大会に対して、真に「教育的意義」を考えているのかを問いたい。ダンス部の大会は、ダンスイベントでもなく、企業の興行でもなく、スポンサーのものでもない。学生のための大会、という真の意義を捉えている大会こそが、この乱立状況から残るべきである。
ここ数年は大きな大会に、何となく政治的な圧を感じるようになった。大会運営や協会に、元学校関係者や第三者的な人物を入れるなど、学校側の事情を理解した上でのフェアな信頼関係の構築を望む。「教育」という言葉を、企業メリットの隠れ蓑に使ってほしくない。
ジャッジ/プロダンサーの視点
ストリートダンサー
だーよし (TRIQSTAR)
絶対にフェアな審査であってほしいです!
コーチの力もあって、すごく大人っぽい表現をするチームも増えましたね。審査員もやらせていただくことも多いですが、異なるダンスジャンルを比べなくてはいけないので、なかなか大変です。例えるなら、人参とジャガイモ、どっちが優れた野菜ですか?みたいな感じです(笑)。主観や好み、自分の得意ジャンルなども評価に入ってきてしまいますが、なるべくフェアに見るように心がけていますし、やはり心にグッとくるダンスはどんなジャンルでも高得点になります。
フェアと言えば、その昔とあるコンテストで、審査員の合計点と違う順位になっていたことがあるんです。何がどうなってそうなったのかわかりませんが、絶対に不正や操作などはあってはならないことです。僕もかつてコンテストに挑戦していた経験があるので、学生の情熱と努力を踏みにじるようなものであってほしくないですね。
コンテンポラリー ダンサー
池田美佳
ジャンルの融合で真のコンテンポラリーを!
ダンス部大会の審査をやらせていただいた時に、その技術レベルの高さに驚きました。特に私が観た帝塚山学院(2022年作品)は、空間を制する技術も表現も素晴らしかったのですが、モダン色が強い作品ながら、音を可視化するという部分で特に優れていると思いましたね。 ストリート系のチームを私が見る時は、より一般的な目線になると思いますが、体の使い方や空気感の作り方はコンテもストリートも同じだと思うので、そこはダンサーの技術として審査しています。
コンテ系のダンサーとしても、ヒップホップのリズムを取り入れたり、ストリートダンサーの職人的な体の使い方から学ぶことは多いと思います。その逆もあります。ダンス部の中で、そういうジャンルの交流から面白い作品が生まれるといいですね。その融合が本当の意味でのコンテンポラリー(現代的)だと思います。