「ダンスで世界を幸せにしたい」ジェンダーフリーなダンサー【Macoto】が見せる新世界
2023.03.14 INTERVIEW
人一倍の努力をしないと人並みになれない
若手No.1ダンサーと言っても良いだろう。
プロダンサー「Macoto」23歳。
しなやかな長身が生み出すキレとパワー、エモーショナルでセクシーな音感表現、バレエからスワッグまでのジャンルをこなすオールラウンドのスキル。
SNSでは、独自のアーティスティックなファッションとヴィジュアルのアート表現が強烈に目に焼きつく。
キッズの頃から大会やステージで活躍、世界的ダンスクルー「RIEHATATOKYO」のエース的存在として頭角を表わし、三浦大知ダンサーへ大抜擢、D.LEAGUEでは初代チャンピオンの原動力となる。
いわばダンス界のエリートに思える彼だが、意外やダンスに劣等感を抱える少年時代だったという。
「ダンスは子供の頃からただ好きでやっていたんですけど、全然センスなかったですよ。兄と弟は何をやらせてもすぐうまくなるから、僕は昔から兄弟にバカにされる存在でした。だから、人一倍の努力をしないと人並みになれない、って思い続けていたんです」
レッスン前には前回の復習、後にはその回の復習、日々の自主練と、人一倍の努力を重ねてきた。
ジャンルの方も、オールドスクールからヒップホップ、そしてジャズやバレエまで人一倍のレッスン量だが、「ただダンスが好きだったから」と苦労とは感じていなかったという。
やがて中学生ぐらいからは、まわりの評価も上がり始め、「RIEHATATOKYO」のメンバーとなる。
「RIEさんは、ヒップホップとジャズやバレエをやっている僕をすごく尊重してくれた。SWAGのショーなのにターンを入れたりと、見せ場を作って僕に自信を持たせてくれたんです」
Macotoのダンススタイルには、ワイルドなSWAGや、スタイリッシュなニュースタイルの中にも、ジャズダンス的なしやかさやシルエットのクリアさが同居する。
野生味と色気、重さと軽さ、強さと弱さ、受容と挑発、安定と不安定などなどの相反する表情が交錯し、その振り幅の広さが独特の魅力となっている。
「よく人から“ヒップホップとジャズ、よく両方できるね?”って聞かれるんですけど、僕の中では同じ感覚でやっているんです。基礎も音の感じ方も全然違うんだけど、両方同じように気持ちいいし、楽しんで踊っていますね」
カミングアウトで見えた色のついた世界
高校時代には語学留学のために1年間渡米し、一時期はダンスを離れた。
ダンサー以外の自分、とある悩みを抱えていた自分の、新しいアイディンティを模索するために移り住んだ街では——。
「アメリカでは疎外感がすごかった。人一倍がんばらないと他の国の人と繋がれないし、その間にインスタで日本の仲間の活躍を目にするのも焦った。学生時代は暗黒、土の中にいるみたいでしたね。そんなツラい経験したからこそ、まわりの人に優しく、愛情を注げるようになったのかなと思います」
常に仲間を大切にするというMacoto。
「RIEHATATOKYO」はまさにファミリーと言える結束力のチームで、「avex ROYALBRATS」の名で初代Dリーグのチャンピオンに輝いた。
高校卒業のタイミングでは、国内最高峰のダンスクルーである、三浦大知のバックアップダンサーに抜擢。
「一流の方と仕事するのはいつも学べるし、常に必死な自分でいれるし、とても刺激的です。D.LEAGUEも自分のダンス人生が変わったきっかけでした。あの作品をできたことで、自分が自分であることに自信が持てた。RIEさんにも、まわりの仲間にも感謝です。世界に色がついた瞬間でした!」
“あの作品”とは、D.LEAGUE20-21のROUND 7トップバッターで披露されたパフォーマンスだ。
Macotoをセンターに据え、ファッショナブルかつパワフルに、切実なメッセージを打ち出した圧巻の作品。
テーマは十人十色。
LGBTQやBLMなどの問題に対して、個人のカラーを大事に、差別の壁を打ち破っていこうという、強い声明のある作品だ。
ダンス後に、ステージ上からMacotoはこう叫んだ——。
「このパフォーマンスを見てくれている、これから先の人生、未来に悩める若者たちへ。決してあなたはひとりじゃないっていうことを忘れないでください。僕たちがみなさんの居場所になれるように、生きる希望となれるようにエンターテインメントを頑張ります。だからあなたを精一杯愛してあげてください!」
ゲイをカミングアウトすること。
どこかで、それを恥ずかしいと思うことが、自分を苦しめていたというMacoto。
「あの作品、そしてRIEさんとの映像作品『PRIDE』を通して、自分が住んでいた世界に初めて色がついた。初めて自分を愛せた瞬間でした」
自分を精一杯愛すること。ステージ上で“自分らしさ”を全開に開放すること。
それはパフォーマーにとって一番美しい瞬間であり、観客に希望と勇気を与え、新しい世界を見せていくものだ。
かつてのクイーンのフレディ・マーキュリー然り、昨年の紅白歌合戦の氷川きよし然り、勇気と自信を携えてジェンダーフリーを表明するアーティストの姿は神々しいまでに眩い。
「中学生時代からあったから……。長かったけど俺には必要な時間で、その時間に成長できたと思います。でも、俺と同じように苦しむ人を増やしたくないなって……。ゲイでなくても、いろんな原因で自分を解放できない若者にも、何かが伝わればいいかなと思った。カミングアウトは自分のためが一番だったけど、でもそれによって他の人にもパワーを与えているんだってことが嬉しかった。……苦しんでいる人たちにとって、自分が光となるような存在になりたいと思っています」
コロナも明け、世界は再び広がりを見せていく。
Macotoは今後、海外なども視野に活動の幅を広げていくつもりだという。
「自分のできることで世界をより良くしていきたい。ダンスで世界を幸せにしたいっていうのは子供の頃からの本気の夢なんです」
インタビュー&テキスト:石原ヒサヨシ(ダンスク!)
★Macotoの高校ダンス部訪問ワークショップ決定!(エントリーはコチラ)