振付師の思考法【ASUKA Yazawa 】都立狛江高校ダンス部2023 年作品をセルフ解説

2023.09.21 HIGH SCHOOL

振付師のリアルな制作意図を解説する「振付師の思考法」
4回目は、高度な作品力で毎年全国入賞を獲得する、都立狛江高校の作品「緑庭(Green Garden)。

コンテスト作品らしからぬ風通しの良い芸術性で、本年度の大会で際立った存在感を放った。

こだわりの詰まった作品をセルフ解説してもらおう!


解説者/振付師

ASUKA Yazawa
プロダンサー/都立狛江高校コーチ

>>オフィシャルHP
>>Instagram

 

解説する作品
東京都立狛江高校学校2023年
2年生ビッグクラス作品
緑庭(グリーンガーデン)
・ハイダン EAST vol.3 【準優勝】
・高校ストリートダンスグランプリ2 023 【準優勝】
・ダンススタジアム新人戦2023 年東日本大会ビッグクラス【優勝】
・DCC2023 年【C hiyoda 賞】

 

参考動画

 

制作のいきさつ
かつて狛江高校では、1年秋から2年秋までの大会作品は私が担当し、2年秋から3年夏までの大会作品は相方のTOMOKOが制作する流れでした。
>>TOMOKOの作品解説記事(2022年)
しかし、もう1人のコーチである蒼依(写真)にも「大会作品に関わってもらおう」という話になり、私1人で担当していた大会作品を、3年前から蒼依と共作するようになりました。

私が主にプロデュース・ディレクションをし、そこに沿って、内容や振付を2人で創作しています。
今回の「緑庭(グリーンガーデン)」も、蒼依との共作です。

いつも振り入れ開始3か月前頃から、どんなものを作るか目途をつけ始めますが、実は今回、その内容にしっくり来ないまま、振り入れ2日前になってしまいました…
とても焦りましたが(笑)、蒼依との最終打ち合わせの1時間前、ようやく出会えたのが「Green Garden」という楽曲でした。

そこからの制作はスムーズでした。音楽の雰囲気や歌詞、MVにもイメージをたくさんもらい、「夢と現実の狭間」を表現することに。
楽曲から得たインスピレーションが多いので、タイトルもそのまま楽曲からいただきました。

今まで以上に、かなり感覚的に創造した世界です。
そのため部員のみんなにも多くは語らず、同じ世界観を共有できるように、かなり曖昧な表現で伝えています。
でも、それを部員みんながたくさんかみ砕いてくれたお陰で、たくさんの賞をいただいているのだと思います。

使用楽曲
Laura Mvula / Green Garden

 

パートごとの解説

 

0:22~0 :28
★オープニング
この作品のテーマは、「夢と現実の狭間にある緑庭」。
そのため、はっきりとしたわかりやすい作品の始まりではなく、徐々に世界観に吸い込まれていく導入を目指し、演出としては静かめにスタート。
特別踊りで何かを魅せるよりも、印象的なイントロに頼りました。

 

 

0:29~0 :46
★本編スタート
本でいう「物語が始まる」のは、この部分。
参考動画では、物語の始まりがわかりづらかったので、今では各パートの動き出しを完全に揃えて、その 「本が開く瞬間」にフォーカスできるよう修正しています。
このパートでは、同じ空間にいるのに時空が歪んでいる雰囲気を出したかったため、4 種類の振り付けのタイプが混在しています。

木のそばで踊る「スロー」の人たち、緑の布で仕切られた「モヤのかかった」人たち、何にも影響されず「クラップで通り過ぎる」人たち、そして1番「普通に踊る」人。

現実世界から離れているような空気を出すため、1番普通に踊る人がアウェイな状態を作り出しています。そして、観客と唯一繋がれるストーリーテラー的存在に。

 

 

0:47~0 :55
★盛り上がりへの加速
このあたりから、ようやく複数人数によるユニゾンダンスが始まっていきます。
サビに向かって気持ちが高揚していく感覚を伝えるため、人数も構成も振付も、段階を踏んで盛り上がりを作れるように意識しました。
クラップは特に、お客さんを巻き込めるようなクレシェンドを。
上手後ろから始まるメンバーの熱が周りの演者に伝わり、演者のテンションがドンドン前に迫っていく…ある意味で、威圧感をお客さんに与えられたら、と思っています。

 

 

0:56~1:13
★サビ
このサビで演者の意識は、「自分たちの世界」から「外で見ている人たち」へフォーカスが変わっていきます。
全員で前を向いて伸びやかに踊って魅せる、という構成に転換。
ここの振付はすべて、蒼依が担当。
長めのスカートを持ったり、なびかせたり、そして赤いパンプスを見せるような振付をしたり、と衣装の特徴を生かしてくれました。

 

 

1:14~1 :31
★スピード展開
音楽のスピード感に合わせ、振付も構成も疾走感を意識。
今まで緩やかに進んでいたので、ここで次々とお客さんの視点を変えられるように構成しました。
ワイド→タイト→下手からのセンター→上手というように。

 

 

1:32~1 :40
★リリース展開
緊張感ある派手演出のあとは、それをほどくイメージで。
上手前に出てきた子の勢いある風を受けたキッカケで、場面は緩やかに展開し、終盤には次のフェーズを示唆するように、リフトが上がっていきます。

 

1:41~1 :58
★空間展開
作品の中で1 番大きく空間が展開していくシーン。
ここまでずっと、あえて観客と演者を区切っていましたが、その布を取っ払い、パフォーマンスエリアをも広げます
1つ前に上げたリフトは、限られたスペースから抜け出していくこの流れを意識していました。
また、散りばめられていた木は中心に集まり、生い茂る1 本の木になるイメージで、そこへ布をかけていきます。

 

1:59~2 :12
★ダンス展開
空間の変化により、より解放的で楽しい雰囲気を表現。
手元や足元についている葉っぱとお花を見せることを意識した振付をしているパートも。

 

 

2:13~2 :16
★ポイントは靴
この作品で1 番の難関であり、1 番重要である「靴を脱ぐ」シーン。
区切られた世界からドンドン解放していく展開を、振付構成・空間で見せてきましたが、最後は衣装で。
魅せながら脱がなくてはならないことに苦戦し、蒼依と共に試行錯誤しました。
動画ではまだ作品制作段階の序盤で、全員同じ振付をしていますが、今では3通りの脱ぎ方をしています。

 

 

2:17~2 :26
★最大の大盛り上がり
すべてが整ったところで、ラストはダンスで解放感を表現。
こちらも丸々、蒼依が振付をしました。
脱いだ靴をどう魅せていくかを意識しながら、移動もダンスも大振りで派手にしてくれました。

 

2:27~ラスト
★最後の余韻
最大のこだわりは、この作品の締めくくり。
ラストの「腰振り」ダンスで余韻を残したまま、終わっていきます。
照明が指定できるのであれば、フェードアウトしていってほしい!(笑)

 

全体ポイント

観客と演者との間に境界線を引く「布」

今回は、「夢と現実の狭間」という世界観にこだわりました。
ある種「夢落ち」を連想させるイメージでしょうか。なんとなくその世界に引き込まれていき、気づいた時には自分もその一部になっていて。でも最後には、やっぱり別世界の出来事だった…という感覚になってもらえたら、とても嬉しいです。

そのため、あえて冒頭部分では、観客と演者との間に境界線を引きました。観客が画面を見ているような、窓の外を眺めているような、少し距離を感じるように。
振付構成ももちろんですが、特にその効果を果たしてくれたのは、だと思います。今まで布を使う作品はいくつも扱ってきましたが、今作では布を使って踊るのではなく、空間演出として取り入れました。

こちらが道を作って「観ている人の手を引っ張る」のではなく、観客自身が「気持ち良さそうだから足を踏み入れたい」と思う感覚で、この世界に没入してほしいと思いました。
最終的には、扉を開いて(布を取っ払って)、迎え入れる展開なのですが(笑)。

振付としては、クラップなど印象的な音やリズムを取るところと、歌詞に合わせて踊るところのバランスを意識した、と蒼依が話していました。

興味→没入→共有、そして最後はその余韻に浸る
今回は、作品の流れを観客目線からアプローチしたのもポイントでした。

 

「振付師の思考法」まとめ

振付師と演者のキャッチーボールでより濃いものに

いつも作品を作るときは、必ず私にとっての「挑戦」を決めています。
今回で言うところでは、「空間変化」と「全員ヒール」の2 つでした。

その「挑戦」が成功するかは、私含め制作者と演者みんなのチーム力にかかっていると思います。狛江生のみんなは、「一緒に作る」意識で毎回形にしてくれるので、その姿勢が本当に嬉しいです。

そしていつも大切にしていることは、作品を深めることです。
最初にテーマを共有し、軸を作り、あとは作りながら、私たち制作者と演者のみんなのキャッチボールで、より濃い内容のものにしていきます。
今作もイメージに沿って、都度細かいことから大きなことまで、振付や構成を変えているところがいくつもあります。

その過程で、演者の踊り込みが必要なのか、こちら制作者の再考・調整が必要なのか、常に考えながらブラッシュアップしていきたいですね!



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