“元ダンス部”のダンス部顧問〜二松學舍・京都文教・初芝立命館・関西大倉

2023.06.14 INTERVIEW

4人にとっての昔のダンス部/今のダンス部

インタビュー&文:石原ヒサヨシ(ダンスク!)
写真:今田和也、村田卓

「ダンスク!」42号より転載

 

二松學舍大学附属高校
松澤龍先生

顧問は一番長くダンスに
関わっていられる立場

 

ダンス部の顧問の先生たちは、キャリアも年齢もさまざま。それぞれの世代や感覚でダンス部を指導するからこそ、ダンス部全体の作品の多様性も広がっているのだ。その中でも、高校時代にダンス部だった部員が、その後教員になってダンス部の顧問を受け持つような形も増えてきた。ダンス部出身だからこそわかること、生徒に寄り添えること、ダンス部の昔と今の違いなどについて語ってもらった。

バチバチのポッピングとスタイリッシュなヒップホップで、ダンススタジアムのバトル東日本大会を8連覇中の二松學舍大学附属高校。その顧問を務める松澤先生は、部員の兄貴的存在でもあり、憧れのストリートダンサーだ。

「ダンスは中学生の頃から見よう見まねで始めていて、國學院高校でダンス部に入りました。その部はブレイキン中心でしたが、より個性を求めてヒップホップやポッピンも取り入れるようになりましたね」

当時テレビ番組が入るほど注目されるダンス部だったそうだが、番組内で高校時代の松澤先生は「将来の夢は踊れる先生になることです!」とコメント。実際、それをきっかけに部員へのダンス指導により力が入るようになり、その後大学ではダンスサークルを創設、
初心者部員のダンス指導に熱を入れていく。

「単純に知識がないと教えられないなと思ったので、いろんな映像を見まくって、自分でやってみて、ジャンルや技の成り立ちなども調べて、それらを言語化して指導できるようにしていました。自分は学生時代にトップのダンサーではなかったし、そういった劣等感があるからこそ、初心者がうまくできない気持ちもわかる。だから、教えることでは一流になろうと、毎日トライアンドエラーを重ねていましたね」

大学卒業後は現在の学校へ赴任し、ダンス部を立ち上げ。自身いわく「一番長くダンスに関わっていられる立場」としてダンス部の顧問の道を選択するのだ。今年で10年目、先のバトル8連覇はじめ、常に全国のトップを走り続けている。

「昔のダンス部はただ自分たちがカッコいいと思うことを追求していたのですが、今のダンス部は大会で勝つためにやっているところはありますね。ウチでは何がカッコ良くてそうでないか? その感覚を養うことを大事にしています。ダンス部で自分の感覚を養って、卒業しても就職しても、生活の中にダンスがある人材になって欲しいですね」


▲二松學舍と松澤先生によるダンスバトル講座。8連覇の秘密が明らかに?

 

京都文教高校
矢下修平先生

他者との違い=リスペクトを
学べるのがダンスの良さ

 

大会での入賞やメディア出演など、年々頭角を表している京都文教中高。ストリートダンスのファンキーなノリを武器にする京都の代表的ダンス部だが、その顧問も元気でノリ良し、まさに文教ダンス部を体現するような先生だ。

「私の出身は三重県で、ダンス部は高校なのにインカレで、他の高校の生徒も集まってくる部活でした。三重高校の顧問の神田橋先生もその仲間ですね。活動は地元のイベントに出るぐらいでしたが、当時京都にすごいブレイキンのチームがいて、ダンス部の仲間みんなで京都の大学に進学して、それぞれの大学のダンスサークルに入ろうってことになったんです」

そして矢下先生は京都の教育系の大学に進学し、卒業後は京都文教中高に赴任。その当時からダンス部はあったのだという。

「今とは違って、そんなに大会にガンガン出るようなダンス部じゃなかったですね。アクセサリーをつけてメイクして、ガールズヒップホップやっているような、よくある感じでした。そこでストリートダンス系の大会に出てみたところ、部員たちは周りとのレベル差に唖然としてしまい…、生徒が“ 自分たちもあんなにうまくなれますかね?”と言ってきたので“ほな、一緒にやってみようか”って、真剣に取り組んだのが始まりですね」

基礎体力作りから、技術の向上、規律や礼儀、もちろん学業との両立も。ダンスのジャンルは、矢下先生も経験のあったロックダンスにフォーカスし、ストリートダンスらしさと高校生らしさがミックスされた作品作りで、徐々に大会で目立ち始める。メディアからの出演の引き合いも増え始め、矢下先生の同級生だったアーティストとの共演MVでは130万回を超える再生回数を叩き出した。

「ありがたいことなんですけど、何かを達成した時には次のことをやり始めてしまっているので、なかなかこれで満足という感じにはならないです。まだまだやりたいことがたくさんありますから(笑)」

教育者としての考えの多くを自身のダンス経験で培ってきたという矢下先生。ダンスを通じて、人や社会と関わることで信条としていることは?

「リスペクト(尊敬)ですね。他者の違いを認めることです。部内でも各自のダンスへの取り組み方への違いを認めること。それに、ダンスって特にうまくなくても、見せ方や見せる対象によって、価値を出すことができる。そういう表現の幅の広さを、ダンスを通じて学べると思います」



▲ただいま絶好調?!京都文教の練習の秘密と部員の素顔に迫った動画。

 

初芝立命館高校
小坂谷ゆき乃先生

ダンス部で学んだことを
恩返ししていきたい

 

ダンススタジアムは今年で16回目となるが、当然その出場経験のある高校生が、ダンス部顧問となるケースも出てきている。一昨年のダンススタジアムSMALL CLASSの覇者である初芝立命館の顧問・小坂谷先生は、樟蔭高校のメンバーとしてダンスタ出場経験を持つ。

「それまで創作ダンスの大会に出ていた樟蔭が初めてダンスタに出た7年前の部員でした。ダンス部の作品を創作する経験もそですが、学校の身体表現コースでもたくさんのことを学びました。何かを表現することや、人と何かを作り上げること、自分の役割以外も意識してチームとして動くこと…、生きていく中での〝可動域〞が広がったような気がします」

大学卒業後は、募集のあった初芝立命館大学高校の体育教諭に。日本一になった翌年にダンス部の顧問としての重責を担うことになる。

「私が学んだことをどこかで恩返ししたいなと思っていました。ダンスを通じて、人が何を求めているか?ということを学んできたので、それは大会で審査員の評価を得ることと同じだと思っています」

生徒と歳が近いせいもあって、より身近に寄り添える存在である小坂谷先生。

「あまり先生だと思われてないかもしれないですけど(笑)、壁もなく風通しよく話も聞けて、生徒と同じ目線で一緒に頑張っていこうという関係性は、私が元ダンス部員だからこそだと思います」

生徒と顧問、一丸となって挑む今年の大会でも、初芝立命館のフレッシュなパワーから目が離せない。


▲部のムードの良さが伝わってくる初芝立命館の練習レポート動画。

 

関西大倉高校
木下ひなた先生

仲間が愛おしくて
一番の宝物だと思える部活に

 

昨年のダンススタジアムBIG CLASS2度目の出場での準優勝という快挙を成し遂げた関西大倉高校。その立役者は、顧問就任2年目、元帝塚山学院ダンス部出身の木下先生だ。

「私が帝塚山の時にはダンススタジアムは出ていなくて、バブリーダンスが話題になっている時期でした。その後、出場するようになって優勝した時は嬉しかったですね」

3歳からバレエを始め、高校時代は「口で言うより行動で示す」タイプの熱血部長。その後、筑波大学へ推薦入学し、ダンス技術だけでなく体の仕組みについて、そしてさまざまな芸術作品に触れていく。

「私はダンスというより表現世界みたいな芸術に惹かれていました。大学でも、新しい表現を作ることを追求していましたし、いざ私が振り付けしてもやはりそういう作品になりますね」

その関西大倉の準優勝作品はまさに圧巻だった。独創的な振り付けと選曲、抽象的な表現による多層的な世界観。ダンス部大会を新しい地平へ誘うものでありながら、同時にアンチテーゼのような存在感を放っていた。

「終わってすぐに拍手が出ない作品。見ている人に余韻が残るような、問いかけるような作品が私は好きなんです」

木下先生が就任する前の関西大倉はいわゆる普通のダンス部だった。それを短期間で、しかも1日1時間という練習時間で指導し、基礎力の向上ともにチームの活気も急上昇。作品の力と成功体験が、生徒のやる気と自主性をグンと引き出し、今年は本気で日本一を獲りにいくという。

「顧問に就任した当時、もっとみんなで何かを作り上げる喜びを味わって欲しかった。だから最初は厳しくしました。そして引退する時には、仲間が愛おしくて一番の宝物だと思える部活にしてほしいですね」

ダンス部界の若いチカラ、木下先生と関西大倉は猛スピードで今日も進化を続けている。

※関西大倉高校の練習レポート動画は近日公開中!



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