追悼:坂見誠二〜ダンスの神様が伝えたかったこと〜第5回目「KENZO」

2024.02.20 COLUMN

「ダンスの神様」こと故・坂見誠二氏の功績を追うため、ゆかりのダンサー/関係者たちにインタビューをしていくシリーズ「ダンスの神様が伝えたかったこと」

第5回目は、地元福岡で誠二から直接ダンス指導を受け、ストリートシーンからDA PUMPなどでの活動まで、オールエリアで活躍し続ける「KENZO」の登場だ!

インタビュー&テキスト:石原ヒサヨシダンスク!


 

最初から本物に教えてもらえた

 

現在DA PUMPのメンバーとしてメジャーで活躍するKENZOだが、元は生粋のストリートダンサーである。

福岡の田舎町出身で、中学生でダンスを始めた頃の先生が、なんと坂見誠二だったという。

「最初からの本物のダンサーに習うことができたのは自分は運が良かったと思います」

と語る通り、この幸運の出会いがのちにKENZOのダンサー人生を決定づけることになった。

「誠二さんやBe Bop Crewの“何でも踊る”スタイルが好きで、レッスンの内容は難しかったけど、とても理論的で丁寧、“体をこう使えばこう動く”という誠二さんの教え方が、合理的な上達につながったと思います。誠二さんのリズムトレーニングは今でも、僕が教えるレッスンの基盤になってますね」

「1日8時間は練習していた」
という尋常ではない努力で、KENZOはメキメキと力をつけ、大学進学と同時に上京、バトルで頭角を表わすダンサーへと成長する。

「いろんなダンスを吸収しなさい」
という誠二の言葉を胸に、積極的に海外にも出ていく。

「僕が海外に行った頃には誠二さんの世代が開拓してくれた海外へのパイプがあって、その上で僕たち若手がバトルしたり、自由に活動することができたんです」

その活躍と姿勢を評価され、LOCKダンスの伝統を守る世界的クルー「Campbellock Family」の日本人メンバーとして迎え入れられた。
強いフィジカルによるパワー&スピード、ソウルフルなグルーヴとフィーリング。
KENZOのダンスからは、オリジネイターたちのルーツの匂いをしっかりと感じることができる。

「誠二さんたち先輩のおかげで、ルーツを知りながらストリートダンスを覚えていくことが僕にとっては当たり前だった。それを知らないとダンスがただの“ムーブ(動き)”になってしまう。新しい発想も生まれてこないと思うんです。
例えるなら、海外の人が握るお寿司、みたいな感じというか。見た目だけ真似て作っていて、伝統的な技術や歴史などの核の部分がない。
同じダンスをやっていても、なんか違うな、あの人の動きって説得力があるよなっていうのはそういう部分の違いだと思います。
何かのジャンルに特化すると、同じ動きが色濃く見えてくる。同じダンスだとしても何万回も練習していると説得力が違う。その動きから“愛”が伝わってくと思います」

またKENZOは、ダンスの進化を武道の「守破離(しゅはり)」にたとえ、まずは基礎をしっかり守ることの大切さをとなえる。それがあって初めて、自分なりの応用を加え、やがて元の師匠やスタイルから離れていけるのだ。

それはかつて誠二が「型破りっていうのはまずカタが出来てないと。それがないとただの“型崩れ”なんだよね」と語っていた思想と重なる。

オリジネイターと直の交流をし、正確なルーツや情報を吸収していたKENZOに、時に先輩格の誠二が質問することもあったという。それだけ、ルーツを知ることを大事にし、その上で進化させていく謙虚な姿勢を常に持っていたのだ。
上下関係や見栄に拘らず、真摯に探究をし続ける。誠二には真の意味での、ダンサーとしてのプライドがあったのだろう。

 

誠二さんからもらった愛を紡いでいく

 

ストリートシーンでの活躍をし続けながらも、2008年にはKENZOはDA PUMPへ電撃加入する。
ダンスシーンの周囲では反対する声も上がったというが、誠二は「がんばれよ!」と応援してくれた。かつて、TRFに加入したSAMを応援していた時と同じだ。

常に誠二は、新しい世界へ飛び込もうとするダンサーたちの背中を押す。

「僕がDA PUMPに加入したのはダンスをもっといろんな人に知ってもらうためが一つあります。それをISSAさんも応援してくれました。
いろんな世界にピラミッドがありますよね。頂上付近には上手い人やプロがいて、裾野には初心者やファンがいる。裾野をもっと広くしていかなければ、頂上付近では奪い合いになるし、山自体も大きくならないと感じているんです。
ダンス本来の認知度をもっと広げて“良いものは良い”というダンスに愛の溢れた世界にしていきたかったんです。僕自身ダンスが好きでダンスに生かされた人間なので」

KENZOと誠二は世代こそ違えど、ダンサーとしてメジャーとアンダーを橋渡しする役割を担った。立ち位置の違いとしては、誠二がストリートダンサーの立場からメディアなどでダンスの魅力を伝えるのに対し、KENZOがストリートダンス出身のメジャーアーティストとして、ダンスの魅力を伝え続けているところだろう。

DA PUMPのメンバーとしてだけでなく、ダンス大会に挑戦する姿や振付師や演出家として、タレントや俳優として活躍の場を広げ、ダンス大会のアンバサダーや観光大使、そして大型ダンス番組『THE DANCE DAY』の監修や審査員など、自らのキャリアや知識、知名度、影響力を「ダンスのために」費やす日々を送るKENZO。

「KENZOはこれからの日本のダンスシーンで、メディアもアンダーも含めて引っ張っていく重要な人物になるよ」

誠二が亡くなる少し前に、KENZOに送った言葉なのだという。
同郷のKENZOを息子のように、後継者のように見守り、これからの活躍を天国から楽しみに見ていることだろう。

「誠二さんからたくさんの愛をいただいて成長できた。いつも細かく僕の活動を見てくれていたし、アドバイスもたくさんもらった。
ターニングポイントにはいつも誠二さんがいました。
いただいた愛を紡いでいかないといけないです。
誠二さんの想いを少しでも今の若い世代や、ダンスシーンに伝えていければと思います」

愛と、情熱と、優しさとインテリジェンス。
そして大きな覚悟。

KENZOが切り開いていく地平にはずっと、誠二の温かい愛が降り注いでいる——。

 

【シリーズ「追悼:坂見誠二」ダンスの神様が伝えたかったこと】

>>#1 ISOPP編:ずっと坂見誠二が炸裂していた
>>#2 PEET & TAKA編:カッコいいままでいっちゃった
>>#3 緒方先生&SHUVAN編:繋いでいくことを大事にしていた
>>#4 SAM(TRF)編:アップ&ダウンを作った影響力は計り知れない
>>#5 KENZO(DA PUMP)編:誠二さんからもらった愛を紡いでいきたい


KENZO●プロフィール
1985年福岡県生まれ。世界の頂点を極めた男 “キングオブダンサー”。
SHUFFLE!!やAll Good Funkなどのダンスチームで活躍し、世界30ヵ国400回以上パフォーマンス、前人未到の8年連続ダンス世界大会優勝を達成する。世界大会優勝や日本タイトルを60以上保有。2008年にはDA PUMP加入。ショッピングモールツアーや、大ヒット曲「U.S.A.」を成功に導く。
NHK紅白歌合戦2年連続出演、輝く!日本レコード大賞5年連続出演。
安室奈美恵、TRF、SPEED、郷ひろみ、INI、SKE48、AK-69、Da-iCE、いきものがかり、ちゃんみな、初音ミク、back number、UVER world、瑛人、荻野目洋子、五木ひろし、m.c.A・T、RADIO FISH、CHEMISTRY川畑要、観月ありさ、アンミカ、渡辺美優紀、鈴木雅之、さくら、ガチャピン&ムック、鈴木紗理奈&山本圭壱、モーニング娘。、ハロプロダンス選抜、高橋愛、田中れいな、MY NAME、ARP、predia、パク・ジュニョン、都倉俊一、フェアリーズ、伊藤萌々香、Mスリー、ロードオブメジャー、崎山つばさ、CYBERJAPAN DANCERS、谷村奈南、misono、ARIA、ヤナキク、RUSH×300、一ノ瀬ワタル、とにかく明るい安村、アルコ&ピース酒井など数多くのアーティストの総合演出や振り付け、指導、紅白歌合戦、CMなどを手がけ、振り付け提供楽曲数は300曲以上を超えている。
テレビ番組、講演会、映画などに出演するなど、多方面でマルチに活躍。
独自のパーフェクトダンスメソッドにて世界チャンピオンやアーティストを輩出。ダンスエンターテイメントを軸においた、株式会社 Brush UPを設立し、代表取締役に就任する。

日本ダンススポーツ連盟JDSFアンバサダー/RED BULL DANCE YOUR STYLE オフシャルアンバサダー/SHIBUYA STREET DANCE WEEK 広報大使/福岡県北九州市特命大使/神奈川県海老名市親善交流大使/福岡県宮若市ふるさとPR大使

◎KENZO:YouTube
◎KENZO:Instagram



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