【創作ダンスの強豪校#1】光ヶ丘女子高等学校〜「らしさ」で突き抜ける東海の実力校

2020.03.21 HIGH SCHOOL

創作ダンスの「表現力」

(序文)ストリート系ダンス部大会を席巻する強豪校の秘密に迫る!


帝塚山学院高校


光ヶ丘女子高校


樟蔭高校

同志社香里高校の三連覇がかかった昨年のダンススタジアム全国決勝大会。ここで優勝をさらったのは、この大会では耳慣れない「帝塚山学院」だった。出場2回目での全国優勝。そしてその秋、ダンススタジアム初の選抜大会で、全国から選りすぐりの強豪のなか優勝を決めたのは愛知の「光ヶ丘女子」。両校とも共通しているのは創作ダンス系のダンス部であること。創作ダンスの大会での常連校が、まるで黒船のごとくダンススタジアムのようなストリート系の大会に押し寄せてきたのだ。
まず「創作ダンス」について基礎知識をおさらいしてみよう。古くは戦後に学校教育が再整備されていくなか、「女子体育」として奨励されたのがダンス=舞踊であり、そこでは決まったステップや形の習得ではなく、自己表現を伴った創作性の高いダンスを狙いとしていた。ダンスの種類としてはバレエやモダンダンス(バレエの発展形)を主なスタイルとして、女子の体育授業や部活動で続いてきた。30年前のダンス部といえば、この「創作ダンス」であり、その代表的大会である神戸の「全日本高校・大学ダンスフェスティバル」は30年以上、日本女子体育大学による「全国中学校・高等学校ダンスコンクール」は70年以上も続く歴史がある。ちなみに、2012年に公立中学校で必修化されたダンスは3種類に分類され、「現代的リズムのダンス」「フォークダンス」、そして「創作ダンス」である。常に学校教育とともにあったのが創作ダンスなのだ。
そして20年ほど前からストリートダンスが若者文化を中心に勃興したわけだが、その系統のダンス部が出場する大会は当時、チアダンス大会のヒップホップ部門ぐらいしかなかった。そこで10年ほど前から登場したのがダンススタジアムを始めとする企業主催のストリート系/リズムダンス系大会だ。それらはスタートからしばらくはストリート系のダンス部を中心に盛り上がってきたわけだが、ここ数年は先の帝塚山学院、光ヶ丘女子、そして樟蔭高校などの創作ダンス部が、その圧倒的な「表現力」をもって評価を上げているわけだ。今回は、その3校の取材をもとに創作ダンスの魅力を探っていきたい。

文=石原久佳(ダンスク!)
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ステージ写真写真:©AMUSE

※『ダンスク!』2020年4月号(3/15刊行)より転載

 

#1
光ヶ丘女子高等学校
(愛知)

「らしさ」で突き抜ける東海の実力校

まず1校目に訪れたのは愛知県岡崎市にある光ヶ丘女子高校。ダンス部の創部は1987年と古く、創部時期のコーチが現顧問、副部長がコーチを務める。創部当初からの生粋の創作ダンス部であり、2018年には「全日本高校・大学ダンスフェスティバル」で最優秀校に贈られる文部科学大臣賞を受賞。そして、ダンススタジアム選抜大会では優勝の快挙。創作・ストリートの両輪の大会で頂点を極める歴史あるダンス部だ。


▲練習前の読書タイム。何人かが拙著『ダンス部ノート』を読んでくれていた。顧問の話ではダンスと学力はシンクロするという。部活へのモチベーションが高い代は学力も比例して伸びる。取り組みの前向きさが文武両道のバランスを生むのだろう。

練習場である体育館に入ると、ダンス部の練習とは思えない張り詰めた静寂が。なんと全員が精神統㆒のための読書をしているのだ。10分間の読書タイムが終わると、バーレッスンやバレエの基礎練習が始まる。続いて2人組での精度の高い柔軟やアイソレ。途中から、太鼓を叩きながら、声を出しながら、徐々に練習に熱気が帯びてくる。全員レオタード着用であることもあり、このへんからストリート系のダンス部の練習とは光景が異なるわけだが、それだけでなく基本レッスンの時から、部員たちの顔つきや集中力が違う。真剣さが光る眼と顔つきで、動きを正しく揃え、お互いに声を掛け合い、まるで場から「波動」のようなエネルギーが漂ってくるのだ。これは光ヶ丘女子がステージから放つ圧倒的なエネルギーと同じ。やはり作品の質は普段の練習からしか生まれないのだ。


▲バーレッスンやストレッチには時間をかける。「シスター制度」と言われる先輩後輩の2人組でスキルの習熟度をチェックする。


▲作品の「世界観」が光ヶ丘の一番の特徴だという。他校から、作品の題名やイメージで覚えてもらっているほど、1つの作品に対しての取り組み方が深い。この日練習していたのはイベント用の楽しい作品で、大会作品とは違うバラエティを見せてくれた。

「世界観を感じさせる作品を作りたいんです。踊り終えた後に風が吹き抜けるようなオーラや、踊る前に袖に待機しているだけで存在感を感じさせるチームになりたいですね」
と語る顧問の団野先生が「チーム光」と名付けた光ヶ丘女子ダンス部は現在89名。モダンダンスやジャズダンスを基本に、ジャズヒップホップもこなすが、モダンやジャズの基礎技術は筆者の見たダンス部の中では最高クラスだ。


▲時折り厳しい指導が入る。この時は部員が顧問に作品の見直しを懇願していた。

「うまいのは当たり前なんです。勝つためにはある程度の踊れる体と技術は必要。それに加えて〝らしさ〟が突き抜けるかどうか。光ヶ丘らしさ、〝チーム光〟らしさ、その作品らしさが突き抜けるか――。大会の傾向や流行は考えていないですね。その時にやりたいことをやるだけです」
創部当時からダンス部に関わる団野先生だが、基本は「やりたがり」ではなく「やりたがらない」タイプ。ダンススタジアムへの出場も当初は渋っていたそうで、新しいことには慎重なのだ。それでも部員からのお願いや想いが強い時には、ようやく重い腰をあげるのだという。
「逆にやると決めたら中途半端はしません。日本㆒になりたいなら、日本㆒の練習をやらないと。㆒度やりたいと言った部員が中途半端にしている時は強く言います」
取材日はチームに分かれて、新作の踊り込みが行なわれていた。まずは曲を流さずに、動きに合わせや擬音や効果音を声に出している。声が揃ってくると、だんだん動きも揃ってくるわけだ。そして、曲を流しても声は出さないものの動きの揃い方はそのまま。練習中の部員に声をかけると……。
「本番では声を出しませんが、心の中では出しています。自分が出す空気と隣が出す空気を合わせて飛ばしている感じです」


▲練習中の声出しはどこにも負けないと自負する。取材中もインタビューができないほどの大声で練習場が包まれていた。

光ヶ丘女子の武器である一糸乱れぬユニゾン。それは音に合わせるのでも、隣に合わせるのでもない。
「合わせるのは呼吸です。そのために声出しが必要になる。動きのリズムというよりも呼吸をリズムを合わせています」
呼吸を合わせる練習はストリート系のダンス部ではあまり見たことがない。このあたりに創作ダンス部の強さの秘密がありそうだ。

帝塚山学院編につづく

 


▲来期の目標は、創作ダンス大会で文部科学大臣賞を取ることと、ダンスタ選抜大会で連覇すること。


▲左から、ロモ、リチ、ガロ、テヒ。部活ではニックネームで呼び合う。これもチームワークを作る秘訣だ。

 


DATA

●創部:1987年
●現在の部員数:89名(高1〜3年)
●入部時の初心者比率:4割程度
●コーチ:2名(OG)
●練習日:平日16:00~18:30/土日どちらか休み(3〜6時間)
●練習場所:鏡張りの体育館1/3スペース
●作品の特徴:必ずテーマがあり、表現力、作品力を重視している。よく私たち
の作品を見ていただく方が泣かれます。感動があると思います。
●指導で一番大事にしている部分:あいさつ、時間、ダンスを好きなること、ダンスを好き
な仲間を好きなること。一番大切なのは信じる心。



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