夏のダンス部大会直前「気持ちを1つに」最後の決戦に挑んだ感動ストーリー

2021.08.17 HIGH SCHOOL

夏の大会シーズン直前!
今年もコロナに負けずに、ダンススタジアムをはじめとするダンス部大会が開催されます。
全国大会への出場校も決まり、そのムードを高めるためにも、2年前に全国大会に臨んだある学校の戦いを振り返っていきましょう。

『ダンスク!』編集長の石原による密着ドキュメント本『ダンス部ノート』より「品川女子学院」編です。

 

わずか150秒の舞台のためになぜ女子高生たちは青春のすべてを賭けるのか!?
若者の成長と、一瞬の輝きと、歓びの共有。ダンス部女子たちの1年間を追いかけた情熱ドキュメント『ダンス部ノート』の中から「はじめに」と「第1章~品川女子学院~」を試し読みとして本書籍そのままに公開します。

 

伝統の女子力で勝負「品女」たちの4年半
〈品川女子学院〉

 

取材・文=石原ヒサヨシ

 

女子力とセンスで勝負の女子校ダンス部

日本の学校教育では、明治時代から100年余り、ダンスは女子の体育種目として実施されてきた。現在も、ダンス人口の約7〜8割は女性。高校ダンス部においては9割前後を女子が占める。昨今では少子化にともない女子校が共学校に再編される流れがあるが、品川女子学院(以下、「品女(しなじょ)」と通称併記)は「社会に貢献する女性を育てる」という方針のもと、90年以上続く伝統ある女子校である。そういう意味で高校ダンスの正統な流れを継ぐダンス部とも言えるのだ。

創部は東京オリンピックが開催された1964年と古い。2019年の部員数は182名(注:中学・高校と一貫教育のため共に練習する。品女では中1を「1年生」、高1は「4年生」、高2は「5年生」と呼ぶ)。全国でも随一のマンモスダンス部で、やはり困るのが練習場所や運営だという。

「体育館を使っても部員全員が踊ることができないのです。それに、やはり180人をまとめるのは大変ですね」
と、丁寧な敬語で答えてくれる部長のアカリ(現在5年生)。最上級生全員からの推薦で部長に選ばれた彼女は、皆が口を揃えて「とにかく優しい」という人柄で、ダンス部の母親的存在だ。

「学校の方針で部活動は週3日。放課後の1時間30分しかできないので、効率よく練習を進めなくてはいけないんです」

部長とコンビを組むのは、副部長のスウ(5年生)。受け答えは物静かだが、頭の回転が速く、マネジメント能力が高いタイプ。アカリにとって大人数の部活を回すには彼女の存在なくしてはあり得ないという。副部長として部をサポートしながら、体育祭の実行委員長もこなすというスーパーウーマンだ。顧問の前田先生も「処理能力が高く、論理的に伝えるのがうまい。新しいことを取り入れる柔軟性もあります」と評している。

そして、5年生の学年責任者であり、ダンスリーダー的存在、ステージでもセンターをつとめるリナは、彼女に憧れて入部する生徒も多いという「品女のアイドル」的存在だ。高いダンス技術や存在感だけでなく、表現者気質だけにこだわりと気持ちが強く、自分のがんばる背中でまわりを引き込む力があるという。

「私は5歳ぐらいからダンスを始めていて、E-Girlsなどに憧れている子供でした。中学はダンス部があるところに行きたいなと思って、品女の文化祭でパフォーマンスを見て、『自分がやりたいダンスはコレだ!』ってピンときたんです」


▲左からアカリ、リナ、スウ

今年の品女の作品のテーマは「コンテスト」
メンバー全員がビロードのドレスにタスキをかけ、さながらミスコンテストのように美の競演をダンスで繰り広げる。コンセプトのキャッチーさ、ガールズヒップホップをメインにした女性らしい動き、メンバーの個性を生かした演出など、品川女子らしさに溢れた作品だ。
今では高校ダンスではコンセプト作品は当たり前の手法になったが、その元祖の一つは品川女子と言えるだろう。強力なダンス力やエネルギーで圧倒してくる関西勢に対して、東京勢は「センス」で迎え撃つ。そ
の筆頭として、品川女子はこれまでもCA(キャビンアテンダント)や幼稚園児、お坊さん、スケバン、カメレオンなどに扮したバラエティ豊かな作品力で勝負してきた。
今年の作品はさらに品女らしい女子力、「女子の憧れ像」をモチーフにしたミスコンテストがテーマだ。そのテーマに決定したのが、2018年の11 月15日。リナのノートには作品テーマが決まった「運命の日」がこう記されている。

11/15
多数決でミスコンに決定!(学年内で)曲を出しあう
11/16
来年、自分たちがやる作品だと思うと、絶望感、不安。大丈夫かな、いい作品にしたい

この作品でセンターを務めたのがリナだ。メンバーたちによる自己アピールや争いがダンスで表現された最後、ティアラをつけマントを羽織ってリナが登場するシーンは作品のハイライトと言える。

最初は私でいいのかな?って感じでした。私は表情作りも苦手だし、大きく踊れるほうじゃないから……」(リナ)

学業優先のため週3回の練習時間しかない品女だが、作品の振り付けもなんと生徒自身で行なうのだという。コーチや顧問はいても作品作りには参加しない。ただ、要所でのアドバイスは非常に細かく厳しいとのことだ。

「作品のテーマ候補はいくつか話し合いで出ていて、最終的に残ったのが蟻(あり)とマネキンとコンテスト。コンテストに決まった時に、『メンバーの一人ひとりの個性を際立たせるように』と先生やコーチ方にアドバイスを受けて、それをダンスで表現するのが難しかったですね」(リナ)

「コンセプトを決める時は、まず自分たちのやりたいことと、自分たちの武器がなんだろうって部分を話し合いました。候補で出たテーマに対して、良い部分と悪い部分を話し合って、最終的に三つぐらいに絞って、それぞれの構成と選曲を考えて、最後は先生方とコーチと相談して決めました」(アカリ)

 

振り付けはリナを含めた四人が担当する。個性の表現、ストーリー性、構成、ダンス。ダンス力に関しては全国クラスでは見劣りすることを自覚しているので、そこをテーマや構成の質の高さで補っていくのが品女の戦い方だ。

「いつももめるのがメンバーの配置なんです。部員はみんな自分に自信を持っているから、後列になった場合に納得できないという不満が出る。そのために先生やコーチによるレベルチェックのテストをやっていて、一応それに基づいて配置を決めるんですが……」(リナ)

ダンス部が大きな大会に臨むメンバーを決める際には、大きく二つの方法がある。

①最高学年全員が出演する方法
②全学年のオーディションによる選抜制だ。

前者はフェアだが、後者は実力主義。しばらくの間、前者の方法をとってきた品女はその葛藤に悩んでいる。

振り付けを担当し、自らもストイックにがんばるリナはできれば選抜制をとりたい。作品のクオリティアップはもちろんだが、技術が向上していないのに大会に出られるメンバーがいることに不満を抱えているのだ。

「フリを作ってから、いろいろ言われると正直あまりいい気はしないです。でもそこを取り入れるのが振り付け担当の仕事じゃないの? と言われ、プライドを抑えてみんなの意見を取り入れました。ちょっと周りの意見に振り回されて自分の気持ちが揺らいでしまったこともあるけど、昔に比べれば私はだいぶ柔軟になったと思います。中学の頃はプライドが強すぎて、他人の意見を聞けなかったから」(リナ)

 

はじまりは「ダンスタ新人戦」

そして2019年3月、修正を重ねてようやく完成した作品を携えて、品女は「ダンススタジアム(「日本高校ダンス部選手権」以下、「ダンスタ」と通称併記)新人戦 東日本大会」ビッグクラスへ挑む。

「ダンスタ新人戦」とは高校1年生が3月に挑む大会で、高校からダンスを始めた部員にとっては初のステージとなることが多い。また、2年生で引退するダンス部にとっては、この時の振り付けで次年度の夏の大会まで戦うこともあり、品川女子もその一つ。

多作なダンス部もあるが、多くは一つの作品を丹念に修正を重ねつつ運命を共にするかのように半年間踊り続けていく。だから、その初披露には最初の「評価」が下されるために、かなりの緊張があるのだ。

当初「コンテスト」というテーマだった作品だが、まわりの反響や評判から「ミスコンテスト」というテーマに若干の軌道修正。〝ミスコン〞というと、その昔に女性差別云々(うんぬん)という意見が話題になり、自粛気味の時代があっただけに、この時代に、現代の高校生が、しかも女性らしさとコンセプト作品を武器にする品川女子が、このテーマに挑んだことは非常に興味深い点だ。

そして、作品の「華(はな)」を担う各メンバーの個性とリナの存在感。近年にない自信とプライドを持って品川女子は19年3月29日の新人戦に挑んだ。

作品の序盤は、熱帯ジャズ楽団の豪華なスイングジャズからスタートする。

色とりどりのベルベット生地のドレスを纏ったメンバーが一気にステージに広がり、観客の期待感を浴びながら美の競演を演じるダンスを展開。

曲がダンスビートに変わり、各メンバーがモデルウォーキングのように次々にポージングや表情を決めていく。体のラインをセクシーに強調したジャズや、力強く華やかなパンキング(腕をムチのようにしならせてリズムをとる踊り方。「ワックダンス」とも言う)などダンス力やユニゾン(全員で同じ振り付けを踊ること)の面でもアピール。

中盤ではリナとそのライバル役が牽制し合うシーンがアクセントをつける。

「中盤でも自分の存在感をアピールできるように意識しました」(リナ)

クライマックスは一瞬、群の後ろに隠れたリナが、群をかき分けながら勝者の証であるティアラとマントをまとって颯爽と登場。女王まであと一歩届かなかった他のメンバーたちが王冠に手を伸ばす最後の陣形が美しく印象的だ。

「終わったぁ!」「良かった! 良かった!」

初陣を無事に踊り終わった後のメンバーたちの顔には安堵の色が。ここまで来るのに、何度もダメ出しを受け、何度も修正を重ねてきた苦労が、ひとまずは報われた気がする。あとは順位だ。メンバーの手応えは確実にあったようだ。

席へ戻り、他校の演技を見つめる。華やかなジャズダンスの福生高校、スタイリッシュなノリの杉戸高校、新人離れしたスキルとフレッシュさで圧倒した千葉敬愛高校、プロ並みの振り付けの駒澤大学高校、独創性とユーモアに優れた千葉県立四街道高校、創作ダンスのような表現に優れた都立大森高校、全国大会常連の都立狛江高校、構成力が抜群の横浜平沼高校、フォーメーションや衣装替えで見せる神奈川県立川和高校。見れば見るほど、先ほどの満足感と自信が揺らいでいく。メンバーの顔には徐々に不安の色が……。

「わぁ。すごい……」「大丈夫かな、ウチら」

今のままでは強豪校にはかなわない

そして結果発表。まずは部門賞がアナウンスされる。

「横浜市長賞は……八王子学園八王子高等学校!」

「キャー!」「やったぁ〜!」

客席から上がるメンバーや応援団の歓声。ダンス部大会の結果発表はいつも独特のコントラストや感情が入り混ざる。入賞なんて無理、と思っていたダンス部は部門賞や特別賞に選ばれるだけで驚き喜ぶ一方、優勝を狙う強豪校にとっては先に部門賞や入賞に選ばれてしまうのは、すなわち「負け」に等しく、沈んだ表情でステージへ向かう。

この日の品川女子は現実的にはどうだろう? 正直、優勝は難しい。強豪校のダンス力や構成力などを冷静に見れば、かなわないのはメンバーでもわかるはずだ。では、優秀賞? いや、作品の個性を気に入ってくれた審査員が特別賞に選んでくれるかも……?

「ストリートダンス協会賞は……立川女子高等学校!」

呼ばれない……。続いてのベストスマイル賞、ベストインパクト賞、ベストビジュアル賞にも品川女子の名前はコールされなかった。

「もう……ダメかも」

優秀賞5校、準優勝にも優勝にも品川女子の名前は呼ばれず、この日の初陣は手ぶらで帰ることになった。優勝したのは、千葉敬愛高等学校。あの1年生離れした圧倒的なパフォーマンスを見れば納得せざるを得ない。

「荷物を忘れないように。入口を出たら集合ね!」

気落ちするメンバーを奮い立たせるように部長のアカリは声をかけ、副部長のスウは部員
の動きをチェックする。リナの頭の中は振り付けの修正部分でいっぱいだ。

「やっぱり今のままではかなわない……」

会場の横浜文化体育館では、品川女子の制服であるベージュのブレザーを着た集団が顧問とコーチを囲んでいる。勝った時も負けた時も、こうやって品女ダンス部は大会の最後を折り目正しく反省をして締めくくるのだ。

次は6月の「日本ダンス大会」。それまでにどれだけ作品を進化させることができるか……。

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