やる気をそろえて、変えるべきを変える!ダンス部「セルフ」コーチングマニュアル#2

2023.09.13 HIGH SCHOOL

<<「#1目的を共有して、現状を知り、課題を解決!」より

 

第3ステップ
やる気をそろえる

 

ここからは、コーチング手法の一つである無意識の書き換え=NLPを使ったチームビルディングやモチベーションのあげ方を考えていこう。

文=石原ヒサヨシ

 

01:責任感と自主性

「やる気がそろわない」、取材で部長さんや顧問の先生からよく聞くお悩みだ。しっかり取り組んでいこうと皆で話し合って決めたことでも、その実行に持続力がない、やる気のない部員が全体のムードを悪くする、それどころか練習に来ない、自分の都合ばかりを言う…などなど、モチベーションに関しての悩みはつきない。

その原因は、メンバー各自の責任感の希薄さにある。各個人が自分のチームに何を貢献できているか?(あるいはどんな影響や迷惑を与えているか?)という意識が低く、それは自主性・主体性のなさとも言えるだろう。

いつも指示を待っている受け身の姿勢や、責任を負わないような身の振り方、周囲と同調していくことを第一に考える言動のクセなどなど……。

厳しく断言したいが、もし部活でキミがそういうタイプだとしたら、それは一生変わらないだろう。

どこへ行っても、どの組織に入っても、キミのそんなキャラクターは変えられない。

高校生の時にはほとんどの人格は形成されていると言われる。
高校の部活動はそれを最後に変えることができる、格好の予行練習にも関わらず、その時間を無駄にしていることになるのだ。

他人よりもまずは自分のこと。自分という存在に厳しく客観的に向き合おう。


【参考動画】2022年に日本一に輝いた大阪府立久米田高校のトーク。意識の高さが垣間見える(2022年)。

 

02:本音が信頼を生む

信頼と信用の違いはわかるだろうか?
信用とは実績や条件を元にした評価であり、信頼とは文字通り「信じて頼りにすること」、その期待を込めた「気持ち」のことを言う。条件や約束ではなく、いわば感情や愛なのだ。

ではその気持ちはどうやってできるかと言うと、お互いに嘘偽りのない本音をブツけ合うことが最初の一歩目だ。

キミたちは練習やミーティングで本音を言っているだろうか?
自分の考えを、自分の素直さを、自分の想いや不安を、自分の言葉で発信できているだろうか?
まずはそこから真の信頼関係=チームワークは始まる。


【参考動画】基礎トレの精度の低さを厳しく指摘する目黒日大の部長(2021年)。

 

03:無意識の書き換え(NLP)

誰しも「思考のクセ」というものがあり、ある外的刺激に対して反応して言動していくことは、過去の経験のデータ蓄積が無識化で働いているから。

わかりやすく言えば、過去に犬に噛まれた経験のある人はおそらく犬嫌いになるだろう。
人間、大小なりともいろんな経験があり、日々の出来事に対して「良い/悪い」「快/不快」などのラベルを無意識的に貼っている。日々の出来事にはそもそも何もラベルは貼られていないはずなのに、無意識が自動的にラベルを貼り、自分の感情や言動をコントロールしているのだ。

この無意識を書き換えることが、自分自身を変える最大のカギとなる。その解決方法の一つに、瞑想などのマインドフルネスや、NLP(神経言語プログラミング)という実践手法がある(誌面の都合で詳しくは解説できないが、興味がある人はぜひ調べてみて欲しい)。

脳科学では無意識は脳の95%を占め、人間の行動を裏で決めていると言う。ならばココをコントールしていく以外に、自分を変える術はない、とも言えるのではないだろうか?


【参考動画】練習前に読書で集中力を高める光ヶ丘女子(2021年)。

 

 

04:モデリングとアンカリング

無意識の書き換えのためのNLPの代表手法として「誰かを真似る」=モデリングというやり方がある。

自分が憧れている先輩、頼りになる仲間、尊敬する先生や親。周りにいなくても、見本にしたい有名人などなど、その人物をつぶさに観察して、まずは演技のように真似てみよう、同じような表情や言動で振る舞ってみよう。

もちろん最初は勇気がいるだろう。でも、君が思っているほどまわりは君のことを気にしていない。だんだんと周りの反応が変わってくるのがわかるだろう。「変わったね」とか「イイ感じだね」と言ってくれるかもしれない。そして、嬉しくなる。自信もつくし、毎日が楽しくなる。「なりたい自分」になれている自分が誇らしくなるはずだ。

そして、強い行動や変化を起こすための「発火装置」をNLPではアンカリングと言う。
それはすでにキミたちがやっている円陣や掛け声にある。
アンカリングとは、感情や五感に訴えかけられる強い刺激によって、行動や変化を起こすスイッチを入れることだ。

本番直前の円陣の際には、苦しかった練習を思い出すだろう(感情)、そして仲間と肩を組み(触覚)、顔を見合わせ(視覚)、声を出す(聴覚)ことによって、不安を忘れ、前向きになり、気合いが入る。強いチームは、このアンカリングを自然と練習や本番前に取り入れているのだ。


【参考動画】「全力表情練習」でテンションを上げる沖縄県立小禄高校(2023年)

 

 

第4ステップ
何を変えるか?

 

改革するならば、しっかりと目的を見据えたものでなければ。
潜在能力を引き出す「4つの窓」、集中力を持続させる組織作りを考えていこう。

 

05:審査基準を元に考える

審査員に審査方法についての話を聞くと、ダンス部大会の場合は「減点法」で審査を行なう場合が多いという。
例えばダンススタジアムならば、①テクニック②コレオグラフィー③ビジュアル④エンターテイメント⑤音楽⑥スペシャリティーという6項目が審査基準であり、それぞれ満点の10点から減点する方向で差がつけられる。

ならば、なるべく減点をされない=弱点を見せない方向で作品を仕上げていきたい。
この中で一番減点されやすいのは①②の技術部分だろう。ここでプロの審査員から満点を取るチームはまさに超高校級と言える。
多様性や作品力を評価される高校ダンス大会だが、あくまでダンスコンテストであるので、この①②で高得点が狙うのがいわば王道の戦い方と言える。

過去の優勝チームを見ても、技術で大きく劣るチームが存在したことはないだろう。
そして、作品力にあたるのが③④⑤であり、これらはダンサー目線というよりも一般目線の評価と言える。技術面での減点をなるべく避け、加点をしやすい作品力を上げていくのが妥当な戦い方と言えるのだが、実際は③④⑤では、バランスさえ取れていればそれほど点に差がつきにくい

また、⑥を上げるにはどんな方法(印象付け)があるのだろうか?
自分のチームがどこに優れ、どこが劣っているか? 技術的な弱点があるならば、それを目立たせない方法や作品力などを考えていこう。


【参考動画】各ダンス部大会の審査基準について、ダンスク編集長とプロダンサーSHUHOでトーク!(2020年)

 

06:慣例や伝統を疑う

練習取材時には、そのダンス部の「伝統」に焦点を当てて取材ポイントを探っていくのだが、中には「盲目的な伝統」というのも存在しているように感じる。
例えば、ずっとやっている基礎練の効果に関して疑わない。部の組織作りや役割分担をそのまま引き継いでいる。先輩たちのやっていた作風をなぞっている、などなど。
伝統を守ることももちろん大事だ。しかし、それで望む成果が出ないのであれば、一度それらを疑ってみる/違和感を持つ/修正していくことも1つだろう。

ダンス部大会のみならず、情報化社会の変化のスピードは速い。そこに敏感になり、対応していくことは、皆さん若手が社会に出てまず必要とされる能力だ。
もちろん伝統を守る=変わらないことも強みの一つ、変わっていくことも知恵の一つ。要はそのバランス感を養ってほしいのだ。


【参考動画】大阪の入賞常連校・箕面高校は、POP&LOCKの変わらないスタイルの強みを最大の武器にしている(2023年)。

 

 

07:集中力・持続力

集中力が続かない、一度決めたことが続かない……などのお悩みもよく聞くことだ。
ダンス部の場合、学校の学力とダンス能力がわりと比例する場合が多く、これは理解・応用・効率などの面での能力が部活にも活かされるからだろう。

部活と学業の両立に必要なのは効率性と集中力だ。

限られた時間をどう配分するか? 短い時間でどう集中できるか? 学業を頑張れる生徒は部活動も頑張れる、という話をよく顧問から聞くが、その逆もまた然りで、学業を疎かにすると、部活動での成果も芳しくない。

なぜなら、集中力はシンクロしているからだ。

部活での集中力が、勉強にも転用され、短時間での効率の良さを生む。だから、部活の集中力を上げたければ、まず勉強を頑張ること!なのだ。

持続力に関しては、あるメニューをやっているうちに、だんだんとクオリティが下がってくる、こなす方向で流れ作業のようになる場合がある。
その状態に自分たちで気づいていないということがダンス部の基礎練ではよく見られるのだ。これを防ぐためには、部内でのチェック機能が大事で、リーダーとなる部員が厳しく客観的に精度を見定めること。
また、基礎練から声を出すことも、先述のアンカリングと関連して、精度を持続させる効果もあるだろう。


【参考動画】京都文教高校は、部員のテスト結果を共有している(2023年)。

 

 

08:潜在能力を引き出す

「ジョハリの窓」というコーチングのアプローチは、潜在能力=自分が知らない自分を引き出すために有効な考え方だ。
自分には4つの窓があり、
1つ目の窓は「自分も知っていて、他人も知っている=開放の窓」
2つ目は「自分は知っているが、他人は知らない=秘密の窓」
3つ目「自分は知らないが、他人は知っている=盲点の窓」
4つ目「自分も知らないし、他人も知らない=未知の窓」

大きな潜在能力が隠された「未知の窓」を開けるためには、「秘密の窓」を開示すること、「盲点の窓」を知ること、つまりは2つの窓を「開放の窓」に近づけることが必要である。

例えば、人には言ってない自分のコンプレックスや悩みを打ち明けることで、自分をより深く仲間に知ってもらえる。あるいは親身になって、自分の良いところ=盲点の窓を教えてくれるかもしれない。
その盲点の窓の能力が自信となって、全く新しいことへのチャレンジ=未知の窓への連鎖が起こるかもしれない。
まずは、自分自身を分析し、他人に秘密を開示すること、仲間とのコミュニケーションを密にすることで、潜在能力は引き出されていく

この「ジョハリの窓」、ぜひグループワークで試してみてほしい。

>>「#3」へつづく



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