目的を共有して、現状を知り、課題を解決!ダンス部「セルフ」コーチングマニュアル#1

2023.09.08 HIGH SCHOOL

コーチがいるダンス部、いないダンス部。顧問がコーチ、先輩がコーチというダンス部。
いろんな指導形態があるが、どんな形だろうが、自分たちで自分たちのコーチができること=セルフコーチこそが教育現場としては理想的な状況だ。今回は、いま注目されている「コーチング」のメソッドを参考にしながら、6つのステップで「自分たちのチカラで強くなる方法」を考えていこう!

文=石原ヒサヨシ

★コーチングとは?
ビジネスや医療の分野で注目されている「コーチング」。語源は「運ぶ(COACH)」の通り、ティーチングやカウンセリングと違って、コーチとクライアント(対象者)の対話や質問によって、目的に対する「答え」を見つけ出していく対話技術。

 

第1ステップ
目的を共有する

 

まずはセルフコーチングのための土台作り。
目的を明確にして、目標を立て、皆で共有していこう!

 

01:目標の前に目的を!

目標と目的は違う。

目標とは、部として個人として具体的に成し遂げたい出来事のこと。
たとえば「ダンス部として全国大会へ出場する」「個人としてレギュラーメンバーに入る」などが目標と言える。
目的はその前にあるもので、たとえば「全国大会出場を目標にできる充実した部活にしたい」「レギュラーメンバーに入るぐらいの個人の成長をしたい」というのが目的だ。

逆に言えば、その目的がかなうならば、目標にはさまざまな選択肢がある、ということ。
例えば、充実した部活にしたいならば、地域のイベントに出るのもひとつ、実力を上げたいならばダンススタジオに通う方法もアリということだ。

部として目標を共有しているならば、そこへの個々の向き合い方(目的)はそれぞれ異なっていても構わないだろう。全国優勝を目標にするならば、「自分のチカラを試したい」でも「仲間と大きなことを成し遂げたい」でも個々の目的はOK。

ただ、目的のない目標はブレやすいので、まずは個々の目的を明確にしておくべきだ。
「なぜ全国大会へ行きたいのか?」、その目標を実現するための個々の強い目的を明確にする。まずは皆で話し合い共有しておきたい。


【参考動画】涙を流すぐらい熱い気持ちで個々の目的や部としての目標を話し合う羽衣学園

 

02:実力発揮の山

アスリート向けの心理学のモデルで「実力発揮の山」という考え方がある。実力を最大発揮するために、積みあげていくべき過程を山に例えた図だ。

まず山の土台になるのが「哲学・価値観」。……というと難しいのだが、要は先述した「目的」だ。
その競技を通じて自分が何を成し遂げたいのか? 苦しい時のモチベーションの源になる信念のようなもので、まずはコレが土台としてしっかりあることが肝要だ。
全国優勝して、自分が何を実現したいのか?という部分である.

その次に「身体」
よく「心技体」と言われるが、これは「体→心→技」のほうが順番的には相応しいと思われる。
競技に本格的に取り組む際、何よりもまずはカラダ作りをするだろう。
カラダ作りをすることで、体力だけでなく根気や集中力も備えられていく。だから初心者や1年生はまずフィジカルトレーニングで、強い心身を作る必要があるのだ。

次に「技術」。ダンスならば定型のステップや基本動作などの形(カタを)しっかり覚え、それらを応用することで独自性を磨いていく。
ここは先のカラダ作りと相関関係にある。体力が新しい技術を可能にし、技術を得る過程で体力も増していくというわけだ。

次に「戦略」とは戦い方のことだが、ダンスならばどんな振り付けやテーマにするか?
ここも自分たちの体力と技術をしっかり見据えた上で、適切な戦略をとっていきたい。
自分たちの実力に見合わない高度な振り付けや、自分たちの個性に合わない選曲やジャンルを選んでしまっているケースは多々みられる。
最後の「心理」はいざ本番への臨み方、メンタル作りのことで、これは後述する。


【参考動画】全国優勝を目的に、強い身体作りを部員全員に課す帝塚山学院

 

03:目標にリアリティはあるか?

筆者がダンス部の取材によく目標を聞くが、「日本一です」という回答をよく耳にする。正直疑ってしまう時もあるのだが、果たして本当にそう思っているのだろうか?
そのために本気になって考えて、真剣に取り組んでいるのだろうか?

過去、筆者は日本一になったダンス部を何度も取材しているが、その取り組み方は一言で言えば尋常なものではなかった。日本一になるチームは当然、日本一の練習をしている。ある種、狂気じみたテンションで日々の練習に臨んでいる。
意地悪な見方をすれば、とりあえず漠然と日本一に目標設定をして、悪くても地方予選の通過、良ければ入賞に喰らいつけるかも?というぐらいの考えであれば、あまり易々と口にするものではないと思う。

さらに言えば、日本一というのは、いわば相対的な外的評価である。自分たちで決められるものではない。
それよりも、明確な内的評価を目標として掲げる方が、より具体的に取り組めるのではないだろうか?
それはたとえば「ユニゾンを寸分違わず揃える」「終わったら呼吸ができないぐらい全力を出し切る」「涙が出るぐらい表現に気持ちを込める」「どこよりもダンスを楽しんでいる様子を伝える」などなど。
「自分たちらしさを出す」という曖昧な表現よりも、何かにフォーカス(選択と集中)をして、具体的な成果が見える取り組み方のほうが、より良い結果や、臨んでいる「自分たちらしさ」に結びつくのではないかと考える。

 


【参考動画】2022年に悲願の日本一を獲得した大阪府立久米田高校の練習。年始の初練習に思いをブツける。

 

 

第2ステップ
現状と課題解決

 

続いては現状分析。自分たちの弱み、強みは何か?
それをどのような順番で解決し、伸ばしていくかを考えていこう。

 

04:チームの現状と課題

目標設定ができたならば、次は自分たちの現状のチカラを見定めることが必要だ。もちろん希望的観測ではなく、客観的に現実的に推し測る必要がある。
指導者や管理者の立場としては「生徒はがんばっているから」とか「これから伸びるから」とかの叙情酌量も抜きにして考えたい。
体力、技術、メンバーの力量バランス、センス、テーマ性、作品力などなど、他校と相対評価する形で自分たちの順位、優位点、課題などを洗い出していこう!

 

05:個人の現状と課題

同様に個々のメンバーの実力も測る必要がある。
実力が劣っているメンバーが影に隠れてしまうのではなく、皆でそれを共有し、チームの責任として伸ばしていこう。
そのために定期的なスキルチェックやグレード分けも、実力差の共有や競争意識を高めるために有効だ。
筆者が取り組む武道の世界には「段位」が伝統的に存在し、必然と指導関係と向上心が創出されていくシステムがある。
現状を知り、課題を解決するシステムをダンス部でも作ろう。


【参考動画】愛知県の強豪光ヶ丘女子は「グレード分け」を取り入れ、部員の競争意識を促す。

 

06:強化ポイントを絞る

そして課題の解決法。それが一番難しく重要な部分である。
チームによって課題は異なるので一概には言えないが、先述の「実力発揮の山」を見直して、どの要素が自分たちに足りていないかをまず話し合ってほしい。

往々にしてダンス部の場合は体力不足と技術不足が課題になるはずだ。
さらに言えば、体力は特にどこが足りていないのか? スタミナ? 体幹? 柔軟性? 技術は特にどの部分が? 苦手な動きは?
「全部足りていない」として、通り一遍の基礎練をこなすのではなく、弱点と強化ポイントを絞って取り組むほうが、短い練習時間では効果的だ。

例えば今週は体幹強化、来週はグルーヴ強化などなど、ポイント決めとスケジュールを考慮して課題解決に取り組んでいこう。
体力強化も技術強化も「正しい形」で行なうことが重要。間違ったやり方は、意味がないどころか思わぬ怪我にもつながる。

 


【参考動画】三重高校の「地獄」トレーニング。きつい練習を楽しくやる工夫が。

 

07:優先順位をつける

練習スケジュールを長いスパンで考えた場合、体力→基礎→技術→実践という順番で強化していくのが妥当だ。
体力に関しては、大きい方・太い方から鍛えていくべきなので、足腰や体幹を鍛えるメニューをトレーニングの最初期では重点を置いていきたい。

ヒップホップでは走り込みによる下半身と心身のスタミナの強化、倒立などの体幹強化も有効だ。基礎はおろそかにならないよう、ペアで見合うなど、正確なチェック機能も備えたい。上級生になったからと言って基礎ができているわけではないし、一流のプロでも基礎の反復は怠らない。基礎の動きで違いを見せられることが一流の証なのだ。

実践練習は作品に向けた応用練習、または作品の振り付けそのものだ。「ダンスク!TV」の取材で感じるのだが、強いダンス部はこの「実践練習」が特徴的であり、真に実践的である。

たとえば、作品中の動きを強化する基礎練の考案や、表情やアクティングの練習、全力を出し切るための練習、本番での緊張感を想定した練習などなど。まさに、練習を本番のように、本番を練習のように考えられるメンタル強化メニューも実践練習の一つだろう。

 


【参考動画】力強いヒップホップが特徴の大阪府立柴島高校大阪府立柴島高校は、走り込みトレーニングで足腰を鍛える。

 


【参考動画】ジャズの基礎を作品のベースにしている山村国際は、ペアでの筋トレ・柔軟を重視している。

 

>>「#2」へつづく



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