ダンス部「表現」の時代へ〜帝塚山、樟蔭、日大明誠、関西大倉
2023.06.09 HIGH SCHOOL
ダンスの「表現」とは?
ここ10年でダンス部の作品は大きく変わった。
10年前、公立中学校へのダンス必修化が話題になっていた時代の高校ダンス部のレベル自体は正直、当時のキッズダンサーたちにも劣っていたように思う。そういうキッズたちは当時、高校生になってもダンス部に入らなかったし、ダンス部出身のプロダンサーというキャリアもそう多くはなかった。
が、年を重ねるごとにダンススタジアムに出場する学校の数は増え、作品のレベルは上がり、ジャンルもスタイルも多彩に。ダンス部大会は年々増えていき、世間やメディアの注目も集まり始める。
そして2017年、大阪府立登美丘高校のバブリーダンスのブレイクで「高校ダンス部」の認知は一気に広まる。さらに、創作ダンス出身のダンス部がストリート系大会に流れ込むことで、異ジャンル競争の様相が高まり、全体の技術レベル・作品レベルはさらに上がっていった。
中には、コンテンポラリーとストリートを掛け合わせた異種配合のようなチームも台頭。そんな状況の中、大会で勝ち抜くために求められてくるのが、プロ顔負けの技術レベルなり、構成力なり、演出なり、独自性なり、芸術性。より高い「表現」のチカラだ。
皆さんの部活動でも「何を表現したいのか?」なんて話し合いはあるだろう。ダンス、特にストリートダンスは、言ってしまえば定型のステップや動きの組み合わせだ。奇抜な動きやオリジナリティというのは、なかなか受け入れられないし、高校生のレベルで仕上げられるものではない。日々の練習で基礎の動きを修練し、確実にモノにし、それらをどう組み合わせ、あるいはアレンジして、組み合わせを工夫していく。そんな形(かた)の集合体であるダンスに、「自分たち」というアイデンティティを持たせるために、あるいは作品のイメージを共有する旗印として「表現」というキーワードはあるのではないだろうか。
言い換えれば、それはテーマ。自分たちのダンスを何処に向かわせるのか? たとえば、友情がテーマ、愛がテーマ、反戦がテーマ…などなど。とはいえ、それは強いメッセージやストーリーである必要はない。黒人のようにファンキーに踊る、ブレイキンで大技を決める。これもテーマであり、作品にある「表現」と言える。要は、何がやりたいかが見えてくる、強く伝わってくるダンスが「表現」なのだ。
しかし最近のダンス部作品には、特にコロナ禍を経て、その表現が一見わかりにくいものが増えているように思う。見たことがあるようで初めて見るような感覚、踊り手と観客の間にある不思議な距離感、安定と逸脱をスピーディに切り替えていく構成などなど。確実に伝わってくる「表現」の熱量はあるものの、フワフワと抽象的な手触りで、つかみどころがなく、しかしながら強く感性を揺さぶる力が。これが高校ダンス部員たちが初めて触れる「芸術」なんじゃないだろうか。
帝塚山学院高校
超高校レベルの身体能力と技術で芸術性の高い作品をクリエイトする。2019年の全国制覇以後やや低調だったが、昨年見事に返り咲く。絵画のような配置と彫刻のような立体感で創られたステージから、踊り手のパッションが迫ってくる。(2022年DCC決勝より)
>>YouTube動画「帝塚山学院の練習」
頭や言葉で理解しようとする「芸術」ではなく、心と熱気で感じる「芸術」。帝塚山学院が2019年にダンススタジアムで優勝して以降、高校ダンス部の大会では、はっきりと「芸術性」が評価されるようになり、そこを追い求めるダンス部が増えていったように思う。そう、一部メディアでは「表現系」と呼ばれる、そんなダンス部が目立ち始めてきたのだ。
ストリートダンスが楽しさや喜び、怒りなどのわかりやすい感情の類を表現しやすいのに比べて、「表現系」のダンス部には、暗くて重くて不明瞭な作風が多い。だからこそ大会では印象に残る反面、一見ネガティブなイメージが大衆に受け入れられない面もある。ただ、コロナ以降の音楽や映画などには、そんな作風が全世界的に広がっているのだという。一概に「暗い」に収めるのではなく、シリアスでリアルでチャレンジング、より本質的な表現であると捉えられているのだ。
わかりやすい例として、バブリーダンスを始めとするエンタメ/コミカル作品で有名な大阪府立登美丘高校が、2021年に披露したのは非常にダークで抽象的な作品であった。振付師が新しい世代に変わったこともあるが、しっかりと時代の空気を受け止めつつ、それまでとは全く逆方向に振り切った勇気あるチャレンジだったように思う。
その「表現系」では、先の帝塚山学院だけでなく、創作ダンス出身の福岡大若葉や樟蔭高校なども、高い技術の上に高い芸術性を乗せてくる強豪校だ。また、同じく創作ダンスの光ヶ丘女子や新潟清心女子の表現力の高さやその意外性にも驚かされる。
樟蔭高校
創作ダンスとストリートの融合を早くから取り組んできた。民族的なものからシュール、ダーク、エンタメまで作品は年ごとに多彩。同校の中学もそうだが、10代の女性が持つ神秘的なエネルギーを作品に昇華させている。(2021年DCC決勝より)
>>YouTube動画「樟蔭高校の練習」
息吹いてきた若いチカラ
そして、昨年のダンススタジアム・ビッグクラス初出場で準優勝を勝ち取った、関西大倉高校は昨今では一番のサプライズな「表現」であった。全身タイツに身を包み、ほとんど無音に近い空間の中で、独特の振り付けやフォーメーションが積み重ねられる。まるで定型を否定するようなシュールな動きと表情が、淡々としながらも熱を帯びていくと、「なんだ、コレは?」と観客はハテナマークを浮かべながらも引き込まれていく。押すだけではなく、引いてみる。埋めるのではなく、余白で匂わす。全部クリアにせずに、謎を残す。優れた芸術にある「問いかけ」が深く心に刻まれる作品であった。
聞けば関西大倉高校の顧問は、帝塚山学院ダンス部出身で、大学を卒業したばかりの23歳の新人教師だという。名門校で経験を詰み、国立大学で舞踊を研鑽し、新しい感覚で、新しい表現を生み出す。若いチカラは、高校ダンスにも確実に影響しているのだ。
関西大倉高校
平凡だったダンス部が、若手顧問の指導により生まれ変わる。2021年ダンスタ初出場で、スモール特別賞、2022年ビッグ準優勝と好成績が続く。ダンス部全体を次のフェーズへ牽引する存在に。
(2022年ダンススタジアム決勝BIG CLASSより)
日本大学明誠高校
若手のOBコーチによる、ニュースタイル系の音感表現を用いた空気感作り、斬新なフォーメーションや共感の持てるJ-POP使いで、現代の高校生らしい表現を突き詰めている。ストリートを経た「新時代の創作群舞」とも言えるか?(2023年ハイダン東日本vol.3 LARGE 部門より)
>>YouTube動画「日大明誠の練習」
同じく、若いチカラと言えば、ダンス部を卒業したOG/OBがそのまま振付師やコーチとして部を支えるパターンも最近では増えている。部のことを理解しながら、歳の近い部員の輪に入り、新しいスタイルや感覚を作品に注入していく。その意味で個人的には、OBコーチによる最近の作品が突出している日大明誠高校に注目している。
彼らの選曲や群舞、フォーメーションなどのコンビネーションが、淡い青春感や儚い疾走感などの「表現」を生み出す。その演舞直後の観客の惚けたような余韻や興奮に、彼らの表現力の高さや独自性が顕れているのだ。
表現系でもストリート系でも、新しい表現を担うのはこれからの若者。それは間違いないし、そうでないといけないだろう。
明日の練習から、次の作品から、自分たちが何を「表現」するのか——。青春のダンスの時間は思ったよりも少ない。
みんなで考えていこう。