「黄帝心仙人」の世界観と発想法〜遊びがテーマになり、テーマが作品になり、いろんな角度から見直す

2018.02.17 INTERVIEW

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黄帝心仙人プロフィール●時間と空間を操る日本人アニメーションダンサーの第一人者。出演したユニクロ広告ではカンヌ国際広告祭大賞グランプリを獲得する。

 

僕の作品の場合はまず世界観
ダンスで感情を伝えるために世界観を作る

 

——黄帝心仙人にとって世界観とは?
まず僕はほとんどの作品を世界観ありきで作っているんですね。普通は、この曲で踊りたいとかこのステップを使いたいとかで作品を作る場合が多いと思うんですけど、僕の場合は世界観が先。ダンスを純粋に楽しむということは自分も好きなんですが、作品となると、自分の思いやメッセージや過去のトラウマや今の感情などを映し出したいんですね。

——世界観を作るためには、ダンス以外の影響をダンスに取り入れることも大事と言われます。
それにはある程度の経験が必要でしょうね。大人になるにつれ、アレとコレがつながるという思考ができるようになるのですが、なかなか難しいところです。高校生の場合は次々に興味を移す方がいいのか、何かひとつを掘り下げて軸を作ってからいろんな要素を乗せた方がいいのかは、タイプによると思います。

——異なるものを組みわせる=異化効果にもセンスが問われますよね。
センスと時代でしょうね。勝手に時代が合ってきて、センスが良いと言われる場合もある。芸人さんでも、時代とタイミングに勝手に乗せられてしまう場合と、もともと地力がある上で何かの拍子にブレイクする場合は、その後が全然違いますからね。


▲黄帝心仙人で一番有名な作品といえば、率いるタイムマシーンのこの作品。ダンスで恐怖が味わえるこの世界観!

 

実は「仕上げ」ができていない作品がほとんど
完璧に仕上げたあとに「抜き」や「謎」をあえて残す

——世界観、というか着眼点は良くても見せ方がイマイチというチームも高校ダンスにはよく見られます。
振り付けを作るという段階と、仕上げるという段階があって、その「仕上げ」が甘いチームがほとんどなんですよね。コンテストでも、仕上げができているのは上位5組ぐらいじゃないでしょうか。もっと高いレベルで言うと、すべてを完璧に仕上げればいいというわけじゃないんです。完璧に仕上げたあとに、ちょっと「抜く」部分や謎の部分を意識的に作ると、意外にそういうところに人は興味や共感を引き寄せられたりするんですよね。

——なるほど。それは高いレベルですね。
やりきった感のその先をいく勇気が必要になりますね。まずはやりきること。ディティールを詰めること。仕上げること。でも、最初から完璧なものを作ろうとしなくてもいいんです。反応が良かったちょっとしたものを積み上げる、いわゆるテストマーケが良かったいくつかのアイディアが活かせる作品を作る方法でも良いと思います。僕のソロダンスにしても、そうやって反応が良かったものを突き詰めて、組み合わせて出来上がっていますからね。


▲ぜひ一度、生で味わってほしい黄帝心仙人のソロパフォーマンス。サングラスに帽子、この首や胸の動き。彼自体がすでに彼にしかない「世界観」なのだ!

 

——そのウケの良かった芽を見逃さないというわけですね。
それは意外と遊びながら生まれたり、友達を笑わせようとして技術の無駄使いをした時に(笑)生まれたりしますね。ちょっとした遊びがテーマになり、テーマが作品になるというか。あと、出来上がったものをいろんな角度から見直して、面白そうなアプローチを試してみるのも良いと思います。
例えば、登美丘高校のバブリーダンスも、BPMを速くしたり遅くしたりしたらどう見えてくるだろう?みたいな発想ですね。

 

僕が高校ダンス部のコーチだったら…

 

——あとダンス的な動きを日常の所作に見せるとか、あるいはその逆とか。
そうですね。僕らのチームの作品はほとんど、そういう所作をダンスにしています。日常的な動きを非日常にしていくのがアニメーションやパントマイムの面白さですから。でもずっと音やビートは感じていて、それをどこで反応として出すかがポイントなんですよね。

——最後に高校ダンス部や若いダンサーへアドバイスを。
作品を作るにあたって、まず最初に決めた方が良いのは、自分たちが他にはないカラーを打ち出していきたいのか、憧れているダンスやダンサーに近づきたいのか、という部分ですね。前者ならば、とにかくいろんなモノをたくさん見て、話し合って、自分たちに加えられるものを取捨選択していく。
高校ダンス部の大会がそういう個性派ばかりの競い合いになったら面白いですよね。後者ならば、何々っぽいという印象はあっても、安定感や高校生ならではの練習量や大人数で踊る迫力がありますから、面白いものが生まれる可能性もある。あとは素材を活かすこと。僕が高校ダンス部のコーチだったら、自分にしかできない技を1週間で考えさせて、それを全員が披露する。その中で輝いているものをピックアップして、それを活かす作品を作る。これが一番早い方法だと思います。

インタビュー&写真:石原久佳(ダンスク!)

>>『ダンスク!』第15号特集「プロの助言」より転載

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