【インタビュー】辻本知彦〜今のダンスに足りないのは「芸術」

2023.02.21 INTERVIEW

揃えることと逸脱すること

  

「面白くなかったです」

 

ダンススタジアム全国決勝大会、審査員を務めた辻本知彦の閉会式での講評だ。

 

ダンス大会の講評といえば、まず出場者の労を労い、全体のレベルアップを讃え、その上で具体的な指導や指摘を付け加えるのが常と言えるが、彼のこの言葉はその場をピリッと引き締め、ダンス部全体の足元を見つめ直させる意味があったように思える。

 

「良いことって、勝手に広がっていくと思うんだけど、同時にその裏の良くない部分も早いうちに考えてしまう癖が自分にはある。ダンス自体は20年前に比べたら遥かに広まってるけど、それで薄まった部分も確実にあるから」 

「優勝チームは素晴らしいと思いました。でも、2位も3位も同じようなダンスで、なぜもっと違うことをやらないんだろう? “こう来たらこう”みたいに、なんでみんな同じようなことをやるんだろう?というのが単純な疑問だったんです」

 

世間一般的には『パプリカ』ダンスの振付師として知られるプロダンサー・辻本知彦は、このたび自身のキャリアを振り返る書籍『生きてりゃ踊るだろ』を上梓した。

そこには、常に自分らしさを求め、もがき、苦しみ、逸脱し、それでも踊り続けてきた辻本の激しい半生が綴られている。

 

「確かに、自分は子供の頃から変わっている部分はあったと思うけど、変わってないとも思いたかった。変わっていてもいい、そう教えてくれるのが本当の教育なんじゃないかなと今は思います。協調性も揃えるのも良いこと。でも揃えないこと、自由なこと、逸脱したことも同じぐらい大事だって子供達に教えることができれば、世の中もっと変わるんじゃないかなと思うんです」

 

大阪生まれ、学生時代はバスケに熱中し、18歳からダンスキャリアをスタートさせた辻本は、テーマパークダンサーからアーティストのバックアップ、コンテンポラリーの舞台、そしてシルク・ドゥ・ソレイユ出演など、順調にキャリアを重ねてきた。世界大会のJUSTE DEBOUT出場などストリートダンスシーンでも名前を知られる存在となる。

 

「でもどこにも満足したことはないんです。いつも次に次に。名声にも過去にもこだわらない方なので……、いい言葉じゃないですけど、ずっと不満を感じていますね」

 


写真・鈴木七絵 

 

 

ダンスに足りないのは芸術

 

 

常に人と違うこと。誰にも似ていないこと。

ストリートとコンテンポラリーのダンス世界をまたぎ、バレエからヒップホップ、アクロバットまでをこなす身体性と技術を持ち合わせる。

緊張と弛緩。野生と品性。抽象と具象。両性の具有。

両極をシームレスに行き来するかのような辻本のダンサーとしての魅力。

ひとたび舞台に出れば、圧倒的な存在感を放ち、ダンサーの枠に収まらないアーティスト=表現者として、辻本氏のキャリアはどんどん「逸脱」していく——。

 

「今のダンスに足りないのは、いや、僕がダンスに求めているのは、つまるところ“芸術”なんです。芸術には理解しにくい部分がある。けど理解できないものに対する探究心を、子どもの頃や学校で学んでいない気がする。わかる人だけわかればいい、という状況も良くないと思うから」

 

10年後に自分が思っているダンスができるかなぁと思いながら、4年後にできたらいいなと思って今ももがいています。それは例えば、バレエとストリートを合わせたような、芸術性がありながらも、わかりやすいもの。いろいろ口で言うよりも、それを見て皆がそう思えるようなダンスを作りたい。それで出るとこに出ないと。そのために“自分の踊りとその環境”というバランスを作らないといけない」

 

キュリア途中から振り付け仕事の依頼が増えてきた辻本は、徐々に自分の思考が逆サイドに変わってきたことを感じたという。踊り手としての主観と、振り付けを受ける側の客観。あるいは、やる側と見る側。それは、直感的思考と論理的思考の具有と言えるかもしれない。

 

「踊る側の想いが強くなりすぎてしまうと、それを客観的に見る視点が薄くなってしまう。きちんと受け手のことや世の中の流れを見るのも大事です。だから、ダンスとは全然違う商売をやってみて、物事を広めるシステムを学びたいなと最近は思っています」

 

「踊る」という主観と、「広げる」という客観。

強烈な個性とセンスを武器に、ぶつかり合いながらキャリアを重ね、運と縁に恵まれ、こだわりながらも客観性とバランス感覚を磨き、やがては自らの強烈な「個」を救済するかのように、物事を広げるためのさまざまな手法を学んでいく。

 

「どんなことでも学びがある。そう思わないと傲慢な人間になってしまう。自分が踊っていればいい、自分が良ければいい、それでは社会との接点がないダンサーになってしまうから」

 

そう語る辻本は、自らの主観、ダンス観に対しても、すでに客観的に捉えている。

 

「ダンス部やダンスシーンについて、いろいろ言えることはありますけど……今は言わないです。自分がもっと大きな存在になって、アンチを跳ね返すぐらいの影響力を持ってから、もっと優しい言葉で伝えたい」

「それに、言うよりも自分が何をやるかが大事だから。いろいろと考えて、まずは1つのことをやってみる。そのフィードバックを受けて、修正して、またやってみて…というプロセスが大事だから。昔は有言実行を心がけていたけど、今は不言実行を目指しています。下手に口に出すことで、その気持ちを消化させたくないんです」

 

インタビューの中での彼の思考と言葉は常にLIVEに彷徨い、蠢き、不時着する。

言葉の意味は常に動いていて、逆に不明瞭でもある

 

だからこそ。

 

ダンサーだから踊りで見せる。体で表わす。踊りで伝える。

その踊りを、広く、大きく、賢く伝えていく。

 

そこに彼の真のメッセージがあるのだろう。

 

辻本知彦、ダンサーだからこそ。

 

 

インタビュー:石原ヒサヨシダンスク!

※辻本知彦の「辻」は一点しんにょうが正式表記。

 

『生きてりゃ踊るだろ』
辻本 知彦 (著)/文藝春秋

 

 



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